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第7話
エドガーはエーレンブルク侯爵に嫁いだ妹のエレオーラに会いに、エーレンブルクの館を訪れた。
広々としたテラスに案内され、二人は午後の陽光を浴びながらお茶を楽しんでいた。
庭にはエレオーラの子供たちが三人、楽しそうに遊んでいる様子が見える。
エレオーラはエドガーが訪ねると、いつも使用人を下げ二人だけの空間を用意してくれた。
そのため、エドガーはエレオーラの前では素の自分でいられた。
「大きくなったわね。上の子はもう5歳かしら?」
とエドガーが微笑んで尋ねると、エレオーラは頷いた。
「もうすぐ6歳になる」
とエレオーラが答える。
「誕生日プレゼントを用意しなくちゃね」
とエドガーは言いながら、庭の子供たちに目を向けた。
エレオーラは男勝りな性格で、両親はその行く末を心配していたが、レオナルド・フォン・エーレンブルク侯爵から熱烈に求愛され、結婚することとなった。今では幸せそうな家庭を築いている。
「パーティーにあの子たちも招待してくれてありがとう。でも、邪魔にならないか?」
とエレオーラは心配そうに尋ねた。
「構わないわよ。退屈なら、私が一緒に遊んであげるから」
とエドガーは軽やかに答えた。
エドガーはため息をつき、心に抱えている問題を打ち明けることにした。
「実は、ルシアンに避けられているの。もう一生口をきいてくれないんじゃないかと思うわ!」
エレオーラは少し眉をひそめた。
「やれやれ。今度は何があった?」
エドガーはルシアンとの経緯を詳しく説明した。
「ルシアンは昔からお兄様に認められたかったんだ。いきなり結婚しろと言ったら、突き放されたと勘違いしてしまったのかもしれない」
「あの子の気持ちを優先してあげる余裕がないのよ。一緒にいると、私、何をするかわからないの」
とエドガーはため息混じりに言った。
エレオーラは微笑んだ。
「自分の手で、自分好みの男に育てたんだから、惹かれないわけがない」
「最初から下心があったような言い方はやめて」
とエドガーは顔をしかめた。
「何が問題なんだ?跡取りなら私がいくらでも産んでやる」
とエレオーラは笑った。
「問題はあの子の気持ちなのよ!こんなおじさんに囲われるなんて、不憫で仕方ないわ」
とエドガーは嘆いた。
「ルシアンがそう言っていたのか?」
とエレオーラが尋ねると、エドガーは首を振った。
「聞けるわけないでしょ!」
「毎晩、部屋に呼んでおいて大事なことも聞かずに、何をしているのやら」
とエレオーラは呆れたように言った。
「ルシアンの話を聞いているだけよ」
とエドガーは困ったように答えた。
エレオーラはため息をつきながら言った。
「寂しがっていたぞ。お兄様の口調が変わったこと」
「子供の頃の記憶だから、覚えてないと思っていたのに」
「子供の頃の思い出は鮮明なんだ」
とエレオーラーは呟いた。
「ルシアンも成人を迎えるんだ。本人の意思を尊重してあげることも大切だと私は思うぞ」
「でもーー」
「子供は親の知らないところで成長しているのさ。それに、私はお兄様にも幸せになってほしいのだよ」
「エレオーラ…」
二人はしばらく無言で庭の子供たちを見つめていた。夏の日差しが降り注ぎ、子供たちの笑い声が風に乗って響いていた。
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