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第8話
エドガーはルシアンとすれ違いのまま、パーティー当日を迎えた。豪華なシャンデリアが輝く大広間には、すでに華やかな装飾が施され、音楽が流れている。彼の胸の中には、不安と期待が入り混じった複雑な感情が渦巻いていた。
「エドガー様、ルシアン様の準備が整いました」
と執事が丁寧に告げる。
「入りなさい」
扉が静かに開かれ、着飾ったルシアンが現れる。彼は成人を迎えた若き騎士として、堂々とした姿で立っていた。エドガーはその姿を見て、彼が巣立っていくのだと改めて実感し、胸が締め付けられる思いだった。
「とても似合っているよ」
「…ありがとうございます」
ルシアンとは目が合わない。彼の視線はどこか遠くを見つめているようだった。
執事が「そろそろお時間です」と二人を促す。
エドガーはルシアンの肩に軽く手を置くと、二人はゆっくりと客人たちの待つ大広間へ向かった。
大広間に入ると、華やかな装飾に目を奪われた客人たちが二人を迎える。特に若い娘たちはルシアンに夢中で、その凛々しさに見惚れていた。エドガーは一通りの挨拶を済ませ、ダンスタイムの準備が整うのを待つ。
「エドガー様、ルシアン様、ダンスの時間です」と司会者が告げると、エドガーはルシアンをダンスフロアへ送り出す。
華やかな音楽が流れ始め、ルシアンは堂々とした姿で踊り始めた。その姿を見つめるエドガーの胸には、これでよかったのだという安堵と共に、後悔の念が込み上げてくる。
エドガーはシャンパンのグラスを手に取り、一気に煽った。お酒を飲まずにはいられなかった。
ダンスが始まってしばらくした頃、遅れていたエーレンブルク侯爵が到着する。
「遅れてすみません」
と侯爵は軽く頭を下げる。
「気にしないでください」
とエドガーは微笑んで応じる。
「三回も着替えることになったから遅れたんだ。ほら、遅れてごめんなさいをしなさい」とエレオーラは子供たちを促した。
子供達三人は並んで、エドガーに「ごめんなさい」をした。
「お転婆な天使たちだ」とエドガーは微笑みながら三人の頭を撫でた。
「伯父さん、お酒臭ーい!」
「あぁ、ごめんごめん」とエドガーは苦笑する。
「お兄様、酒を飲んでいるのか?」
「まあ、少しだけ」
「せっかくだから、二人も踊ってきてはどうだい?この子達は私がみておくよ」
「そうか。ではそうしよう」
と妹夫婦はダンスフロアへ向かった。
エドガーは少し子供達と遊んだ後、酒が急に回ってきたのを感じた。
十年近く禁酒していたから、酔いが回るのが早い。
彼は子供達をシッターに預けると、静かにパーティを抜け出した。
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