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02.誘い

 しばらくしてパーティの姿が見えなくなった後、自分を静止していた手がすっと離れた。 「ッ何で反論しねぇんだよ! アンタの方がアイツらより能力高いだろ!!」  同時に我慢の限界がきて、勢いに任せて目の前の魔術師に掴みかかってしまった。けれど向こうは動揺する素振りもなく、少し目を丸くしているだけだ。 「初対面のお前に何故そんな事が分かる?」 「っ、そ、れは……」  静かに切り返されて、言葉を失ってしまった。  ……それは、そうだ。  普通パーティを組んだ仲間でもないと相手の力量は分からない。冒険者を統括する商業ギルドなら把握しているかもしれないけれど、どう見ても自分は冒険者の側だ。そう問われてもおかしくない。  分かっていたはずなのに、また勢いに任せてやってしまった。    どう説明するべきか上手く頭が働かない。いつもこれで不信感を持たれる。説明してみても、下手をすれば嘘つき呼ばわりされることもある。  少し悩んだけれど、だんまりのまま嘘つき呼ばわりされるのも嫌だ。同じ反応をされるなら素直に行動してからの方がいい。 「……みえる、から」  いつも通りの結論に達して恐る恐る口にすると「見える?」と不思議そうな声が聞こえた。笑うでも疑うでもなく、ただキョトンとした表情。さっきの奴らみたいな悪意は感じないけど、逆にそれで焦ってしまう。  話を聞こうとしてくれてる。ちゃんと説明しないと。 「文字で見えるんじゃねぇけど、こう、雰囲気の強さっていうか……ええと……」  丁度いい言葉が出てこない。  元々こういった事は苦手だ。なのに自分しか知らない事をどうやって説明すれば良いのかなんて、すぐに分かるはずもない。  頭が真っ白になって、変な汗が出てくる。  どう足掻いてみても何も言えず、沈黙が落ちた。すると綺麗な顔がズイッと一気に近付いてきて。  覗き込んでくる瞳は髪と同じく薄い茶色。その虹彩には白みがかった明るい青が混じって、きらきらとしていて綺麗だ。  魔力が強いと鮮やかな色が目に宿るって聞いたことがある。おまけに神殿にいた頃の師匠と同じような目だ。やっぱりこの魔術師は強いと思う。 「っ!?」  ぼーっと瞳を見つめていると、突然ぐわっと目の奥に何かが入り込んでくるような感覚がした。  焦点を合わせた虹彩はさっきより青が強く発色している。具体的には分からないけれど、何かされてる。それだけは魔力に鈍くても分かる。  この感触は嫌だ。  抵抗するように目の奥を睨み返すと、ふつりと感じていた圧が途切れた。 「お前……【眼】の能力持ちか」 「えっ。なん、で……」  説明しあぐねていた能力を言い当てられて、とっさに反応出来なかった。    この世界には一定数、生まれながらの特殊能力がある人間がいるらしい。  言い当てられた【眼】は見えないはずのものが見えるとされる能力だ。魔力のない剣士が魔力を感知できたり、人の思考が分かったり、人によって読み取れるものは違うらしいけれど。  自分が持っているのは主に前者の方。  気配や能力といった、主に戦闘能力が雰囲気のような形で見える。戦士なら闘気、魔術師なら魔力の揺らぎ。能力が高ければ高いほど、それはハッキリと見えてくるのだ。   「何で分かったんだよ、オレの力のこと」  ひとまず魔物の死骸から少し離れた場所の木の下に腰を下ろした。座って早々にぶつけたのは、ずっともやもやしていた疑問。  修行して身につける戦闘スキルとは違う能力があるというのは、一応世間にも知られてるらしい。同類に会ったことがないから実感した事はないけれど。  しかも能力の種類はいくつかある。目を覗き込んだだけで、どうして目の前の魔術師は具体的な能力まで分かるんだろう。そう思いながらじっと見つめてみたけど、その答えは分かりそうにない。  ――もしかしたら、同族なんだろうか。  同じ【眼】の能力があるから分かったんだろうか。  ふと思い付いた可能性に心が少しだけ沸き立つ。目の前の魔術師をじっと見つめると、その顔がふふんと笑った。 「魔術師は研究者でもあるんだぞ。舐めて貰っては困る」 「……そっか」  魔術師は知識職と言って、色々な物事を研究して操る職業の一つだ。当然色々な事を知っている。自分が分からなかっただけで、さっきのは魔術の一つだったのかもしれない。    少しだけ期待してしまった。  同じ能力の持ち主なら、色々と説明しなくても分かってもらえるんじゃないかって。パーティも組めるんじゃないかって。  そうじゃないなら望みは薄い。説明が上手くないから、また必ずどこかでぶつかってしまう。  勝手に舞い上がっていた自分への落胆も合わせて、無意識に肩が落ちていく。  ……でも、せめて街までの案内は頼めたりしないだろうか。  身軽な格好で籠を持っているから、近くの街の依頼でアイテム集めをしに来ているのだろうし。その帰りついでにでも同行させて貰えると間違いがなくて助かる。  初対面で泣きつくのは申し訳ないけれど。    少し後ろめたく感じつつ話を切り出すタイミングを伺っていると、向こうの方が先に話しかけてきた。 「お前、名前は?」  ふっと視線がこっちに向いてドキリとする。  よく考えれば名乗ってなかった。向こうの名前も知らない。 「あー、えっと。ハーファ」 「ハーファか。なあ、ハーファ」 「な、何だよ……」  綺麗な顔でにこりと微笑まれて、少しドキドキしてしまった。見れば見るほど冒険者らしくない。  そんな雑念で頭が一杯になっていると。 「パーティを組まないか?」  突然の提案に頭が追い付かなかった。  目の前でひらひらと手が動いて、ようやくハッと我に返る。それでもやっぱりその言葉を理解できなくて、地面を睨んだり空を睨んだり、地面の上で視線を躍らせてみたり。我ながら怪しい動きを繰り返す。  そうして言葉を咀嚼し続けたけど、やっぱりすぐには何を言われたのか理解できなかった。

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