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第6話
ぶるりと一回身震いをさせてから浬はドアを叩いた。返事はないが、中に人の気配がする。
ドアノブを回すと涼しい風が脇を過ぎていき、浬の長い前髪を靡かせた。乱れた髪型を整えると横から西藤が顔を覗かせて、浬はびくりと身体を跳ねさせた。
「お、藍谷じゃん」
「こ、こんにちは。あの、お邪魔してもいいですか?」
「もちろん!ここに来てくれたってことはうちに入る気になった?」
「はい。辻くんも」
「よし、新入生ゲッドだ」
西藤がにっと白い歯を覗かせてくれたので浬は緊張の糸を解いた。
「あと先日はご迷惑をおかけしてすいません」
「いい経験だったろ」と西藤は笑い飛ばし、 居酒屋での失態を呆れている様子はなさそうだ。
「これで一年生は三人目だな」
「あと一人って誰ですか?」
「羽場だよ。な?」
西藤が振り返ると窓側のソファに羽場が腰かけ、ハードカバーの本を読んでいる。浬を一瞥するとあからさまに顔の表情が険しくなった。
「藍谷も入るって。仲良くしろよ」
西藤が声をかけても羽場はなにも答えない。『人のために活動する』という言葉に惹かれてウェルネスに入ると決めた。
でももし羽場がいるなら潔く辞める。
羽場と関わりたくない。
「やっぱり辞めます」
「なんで⁉せっかく来てくれたのに」
「すいません」
頭を深く下げて部屋を出ようとすると羽場の声が響いた。
「今更偽善ぶっても遅いだろ」
「偽善ぶるって」
そういう気持ちがなかったわけではないが、はっきり言われると反論できない。 誰かの力になれば浬の罪が消えるような気がしていたのも事実だった。
「偽善のどこが悪い? 俺も感謝されたいって気持ちはずあるよ」
西藤のあっけらかんとした言葉に浬と羽場は目を丸くした。
「じゃあ羽場はどうしてウェルネスに入ろうと思ったの?」
「姉と同じような人の手助けをしたかったから」
「ほら、俺たちとそんな変わらないじゃないか。手助けする=感謝されたいってことだろ?」
「別にそういうつもりじゃ」
「でも手助けしてなにも言われないとちょっと嫌だろ? 毎回じゃなくてもせめて一回は言われたいじゃん」
「それは、まぁ」
「そう思うのは別に悪いことじゃない。それでお互いがウィンウィンでいられるなら、どんな下心があってもいいと思うよ」
罪滅ぼしでも誰かの手助けになるのかもしれない。それはいままで考えたことのもなかった。
もしかしたらここは浬の人生を修正できる場かもしれないと淡い期待が胸を燃やす。
「やっぱ入ります」
「よかった。じゃあこれで三人だな」
羽場と視線が合ったがふいと背けられてしまい、浬はようやく自体の重さに気づいた。
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