5 / 107
03. 兄弟みたいな関係 ①
中学校生活も残り半年という頃。おれ達は小春日和に誘われて、中庭のベンチへと集まっていた。
肌に当たる風は少し冷たさを感じるようになったが、降り注ぐ日差しはまだポカポカしてとても心地が良い。
受験の大事な時期ではあるけど、勉強詰めでも良くない。たまにはこうやってのんびりするのも大切なんだ。
「小春日和だなぁ……」
眩しくないように、うまい具合に顔の部分だけ日陰になっている中で、おれは満足そうに目を細めた。
「午後の授業、眠気に耐えられるかなー」
隣のベンチから、そんな声が聞こえてくる。昔からずっと一緒にいるんじゃないかと錯覚するくらい、すっかり馴染んだベータの太陽 だ。
「んー。このまま寝ちゃいたい……」
同意の意味も込めて、そう言いながら大きなあくびをひとつ。
なんともいえない魅力的な言葉で誘惑されている気分だ。
「なぁ、蒼人 のクラス、午後自習だろ? なら、このままここでゆっくりしようぜ」
隣のベンチにいる太陽ではなく、自分を日陰から守るように頭を傾けている蒼人に向かって話しかけた。
受験生が何を言ってるんだという話だけど、眠いものは眠い。この状態で授業を受けても、身が入らないのは明らかだ。先生の言葉も、右から入っても左にすり抜けていってしまうだろう。
おれ達三人以外にもちらほら生徒がいる中庭。そこのベンチでアルファに膝枕をしてもらっているオメガと、そのオメガを撫でながら優しく見守るアルファという光景。
おれにとっては当たり前のことなので何の疑問も持たずに過ごしてきたけど、蒼人の膝におれが座る教室でのいつもの光景と同じく、他の人から見ると普通じゃないらしい。
今も、チラチラと横目に見ながら通り過ぎる生徒がたくさんいた。
そんな視線など全く気にしない様子で、蒼人は自分の膝の上で眠そうに微睡むおれの髪をそっと手で解す。
目を閉じているおれには見えないけど、太陽が言うには、こういう時の蒼人の視線は慈愛に満ちているらしい。
それならきっと、蒼人もおれの事を家族同然に思ってくれているはずだ。そう思うとやっぱり嬉しい。
「んなわけにいかねーだろ。お前も駄目だって言えよ。麻琴 に甘すぎんだよ」
隣からの太陽の言葉は至極真っ当なのに、自分の行動の何がいけないのか分からない様子で、蒼人は困ったように微笑んだ。
「ったく。……ところでさ。お前は付き合ってないって言い張ってるけど、じゃあ結局のところ、何になるんだ?」
太陽は『蒼人がおれを甘やかしすぎる問題』を、これ以上深く掘り下げても同じことの繰り返しだと思ったのか、話題を変えてきた。正直、この話題だって前々から何度も質問され続けてきたものなので、同じことの繰り返しではあると思うのだけど。
ともだちにシェアしよう!