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04.〈挿話〉雪の日 1(蒼人視点)②

 俺自身に敵対心を持つやつならば、適当にあしらうことも出来たが、思いもよらずに麻琴の名前が出てきて、身構え警戒を強めた。 「付き合ってるわけでもないし、許婚なわけでもないし、君にそんなこと言う権利あるの?」  半笑いで小馬鹿にしたように言われたセリフに、うっと一瞬言葉に詰まる。  反論出来ずにぐっと拳を握るけれど、悟られないように平然とした態度のまま相手を睨み返した。 「へぇ。何も言わないんだ?」 「お前に言う必要はない。俺たちの事に口を挟むな」  図星を指されただなんて気付かれたくなくて、捨てゼリフを残してその場を離れようとした。  こういうのを相手にしていては、ろくな事はない。 「おーこわ。君がこんなに独占欲を剥き出しにしてるのを、オメガくんは知ってるのかな?」 「なっ……。お前、余計なこと言うなよ?!」 「君が焦っているのを見るのは楽しいね」 「ふざけんなっ!」  相手の思うつぼにはなりたくないのに、麻琴のこととなると、冷静ではいられなくなる。  ニヤニヤしながら、俺の反応を伺っている態度で、明らかに面白がっているのが気に入らない。  それに、麻琴のことをオメガ呼ばわりするのも気に入らない。未だ根強く残る、アルファ至上主義者なのだろう。 「まぁ、君の気持ちは置いておいて、僕が気持ちを伝えるのは自由だから、君にとやかく言われる筋合いはないね?」  勝ち誇った様子でそう言われると、俺は何も言い返せなくなる。  麻琴は俺の事を兄弟のような存在だと信じて疑わない。それ以上の感情は持ち合わせていないから、急に告白をしたところで混乱させるだけだ。かと言って、目の前にいるこいつが告白なんかしたら、意識していつかは本気で好きになってしまうかもしれない。  ──そんなことは、絶対に許さない! 「ねぇ? アルファくん。君の気持ちはどうなの? ……ま、聞くまでもないって感じだけど」 「俺の気持ちがどうあれ、お前に言う必要はない。あいつにも余分なこと言うなよ」  公の場でフェロモンを出すのと同じようにマナー違反なのだが、ついカッとなってアルファの威圧を放ってしまった。これでは、目の前にいる馬鹿と同じではないか。  それでもその威圧を受けたアルファは、敵わないと瞬時に判断し、チっ……と舌打ちをするとその場から離れていった。  冷静さを欠いた己の行動を反省しつつも、やはり先程のアルファの言ったセリフが心に大きく残る。  麻琴は自覚していないが、昔からモテるんだ。ただ俺が常に側にいるから誰も近寄れないだけで、ちょっと気を抜けばあのアルファみたいなやつは、たくさん現れるだろう。  物心ついた頃から、ずっと麻琴を守ってきたんだ。変なやつに取られてたまるか……。  俺はそう心の中で気持ちを引き締め、麻琴の待つ下駄箱へと急ぎ足で向かった。

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