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05.〈挿話〉雪の日 2(蒼人視点)①
手元の時計に視線を落とすと、麻琴 との約束の時間が過ぎてしまっていた。
窓の外を見ると、昨日の夜から降り出した雪がまだ止むことはなく、辺り一面の雪景色となっていた。
普段はあまり雪の降らない地域なので、たまにこうやって積雪があると、あちこちで小さな雪だるまを目にするようになるのが微笑ましい。
いつもは下駄箱で待ち合わせているのに、今日は麻琴が見当たらない。あれ? どうしたんだろうと、外へ出てキョロキョロ辺りを見回すと、校庭の隅に傘もささずにしゃがみこむ麻琴と、目の前にちょこんと置かれた雪だるま。まるで親子のように思えて、ふふっと小さく微笑んだ。
静かに近づくけれど、サクッサクッと雪を踏みしめる音でバレてしまうのは仕方がない。
静かに麻琴の頭上に傘を差し出すと、雪だるまを見つめていた麻琴が顔を上げた。
図らずも麻琴の上目遣いを受ける形となってしまい、うぐっと声にならない声を上げた。
──くっそかわいい。
思わずそんな心の声も漏れそうになったが、誤魔化すように麻琴に声をかけた。
「ごめん、待たせちゃったな」
降り続く雪が頭にも肩にも薄っすらとつもり、待たせてしまった時間の長さをうかがい知る。
少しでも雪を遮るようにと差し出した傘はそのままで、麻琴を立たせる為にもう片方の手を差し出した。
「蒼人 が連絡もなしに遅くなるのって、珍しいな」
差し出された手を掴もうとしたその指先は、雪を触っていたからかすっかり赤くなってしまっていた。
「ああ、ちょっと話があるって引き止められて」
そう言いながらきゅっと掴んだ手の温度がやけに冷たくて、暖めるように包み込んだ。
「雪だるま作ってたんだな」
足元にちょこんと立ったままの雪だるまに視線を落とす。
「やっぱ積もったら、雪だるま作りたくなるよなっ」
にぱーっとのお天道様のような笑みを浮かべる麻琴に、釣られるように口元を緩ませた。
「でも、指冷たくなってる」
「んー。でも、お前の手があったかいし」
甘えるかのような口調にドキリと胸が高鳴るが、これで無自覚だというのだから困ってしまう。
これでお互いに自覚があるのならば、甘々展開なのだろうけど、世の中はそんなに甘くない。
今はまだあり得ない期待を、気付かないほど小さなため息と共に追い払った。
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