20 / 107

09. いつもの四人 ②

 そもそも、ここはオメガクラスだ。ベータならまだしも、アルファがそう簡単に入り浸って良い場所ではない。高三ともなると、初めてのヒートを迎えている生徒も多くなっていて、先生たちの目も厳しくなっていた。 「放課後勉強教えてもらおうと思ったんだけどなー」  佐久くんに助けてもらったことを話した日、おれが褒めちぎったせいか『どんなやつなのか見極めてやる』と、まるで保護者みたいなことを言いながら意気込んで対面したけど、実際に会って話をした佐久くんの対応がとても良かったらしく、『案外良いやつじゃないか』って、あっさり手のひらを返したんだ。  それからなんかすっかり懐いちゃって、まるで飼い主の足元にまとわりつく子犬のようになった。  名前もいつの間にか『星司』『太陽』と呼び合う仲になっている。ちなみにおれは相変わらず『佐久くん』『飯田くん』のままだ。  おれ達との時もそうだったけど、太陽は人の懐に入るのが上手いんだ。人懐っこくて本当に子犬みたいだ。  そんな感じなので、いつの間にかおれの周りには太陽の他に、飯田くんと佐久くんがいることも増えて、一気に賑やかになった。四人とも結構話すので、みんなで集まると話題も尽きない。  物心ついた頃から一緒にいた蒼人は口数が少なくて、いつも話すのはおれだった。それでも、嬉しそうに時折相槌を打ちながら話を聞いてくれる。  賑やかなやり取りに憧れることもあったけど、蒼人と二人きりの安心する空気感が好きだった。  だから、蒼人が戻ってくるまでは、一人の時間を満喫したり、太陽と他愛もない話をするだけで十分だと思っていた。 「アルファクラスは登校時間も早いし、早朝から授業があるから、こんな時間には来ないだろ」  性差別が少なくなったと言われているとはいえ、アルファに優秀な人材が多いことには変わりがないので、特別授業も多いらしい。もうすぐ夏休みだけど、なにやら夏休み中も勉強合宿があったりと大変みたいだ。 「夏休みは、星司抜きで遊びに行くかー」  うーんと大きく背伸びをし、太陽は鞄からスマートフォンを取り出し、何やら検索し始めた。 「麻琴はどっか行きたいところある? せっかくの夏休みだし、泊まりなんかも楽しそうだよな」  ウキウキした様子でスマホ画面をタップするけど、大事な時期なのに? と、少し困惑気味のまま無言で立っているおれに気付いてこちらを見た。 「もちろん、やるべきことはちゃんとやるさ。でも息抜きもしないと、変なところで力入りすぎて失敗に繋がったりすんだよ」  そう言いながらニカッと笑うと、ピースサインを作って見せた。  ノープランでその時が楽しければそれでオッケーみたいな性格に思わせておいて、案外色々と考えてるんだよなぁと、スマホ画面をじっと見つめる太陽を眺めながらそう思った。

ともだちにシェアしよう!