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13. 予想外のヒート ②
「……と。……こと。……まこ……と……」
ま……こ……と……?
誰? ……それは、……おれ? ……の、名前?
呼ぶのは、誰……?
「まこと、……麻琴 」
声に導かれるままに、ゆっくりと重いまぶたをひらく。けど、靄がかかったように目の前がよく見えない。ぱちぱちと数回瞬きをしてみた。
「ああ良かった。目を覚ましたな」
やっと開けて来る視界に、会いたかった顔が見えてきた。
飯田 くんに向けた笑顔じゃなくて、しっかりとおれだけを見てくれている。
何もわからない未知の空間を彷徨い続けて、不安に飲み込まれそうになっていたのに、蒼人の顔を見ただけで、不安がどんどん無くなっていく。
すごい。蒼人は、おれの特効薬だ。
「……あ……お……と……」
もっともっとおれだけを見てほしくて、蒼人の名を呼んだ。
やっと絞り出した呼びかけに、おれの顔を覗き込んで、頭を撫でる。
「……どこか気持ち悪いところはないか? ……痛いとか、苦しいとか。……大丈夫か?」
普段あまり話さず無口な蒼人が、心配そうにおれの様子を聞いてくる姿に、やっぱり過保護だよなぁって思う。
でも、直ぐ側に蒼人がいる。……その事実だけで、おれの中にあった不安が、嘘のように消え去っていた。
ほっと安堵の笑みを浮かべると、蒼人もそれに気づいてふんわりと微笑んだ。
「大丈夫そうだな。……ちょっと起きるか?」
小さく頷いたおれの背中に腕を当て、起き上がらせてくれる。
その時、腕に巻かれた包帯の存在に気がついた。
「あおと……それ……」
「ああ、これ? 大丈夫だ。なんでもない。気にするな」
全然痛くないしな。って言いながら、腕を動かしてみせるけど、うっと一瞬顔をしかめた。
「ちょっと、火傷しちゃったんだけどさ、まだちょっと痛みあるけど、こんなのは平気だ」
どう見ても強がっているようにしか見えないけど、蒼人にだってプライドとかそういうのあるだろうしと、それ以上深追いするのはやめた。
ただ、慎重な蒼人が火傷をするなんて考えられなくて、きっと何かを隠してるんだろうなとは思う。
「俺の心配は良いから、麻琴はもう少し休んでいたほうが良い。横になるか? それとも、何か飲み物でも飲むか?」
相変わらず甲斐甲斐しく世話を焼こうとする蒼人に、「大丈夫」そう言うと、ゆっくりと回りを見回した。
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