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14. 担当医の話によると ①
「じゃあ……。順を追って、ゆっくり説明をしていくよ。具合が悪くなったりしたら、我慢せずにすぐ言うんだよ?」
約束通り、次の日の朝病室へやってきた先生は、ゆっくりと話し始めた。
なぜそんなに慎重になっているんだろう? ……と、少し気にはなったけど、春岡 先生はいつも丁寧だからそう感じただけだろう、って思っていた。
でも、先生の口から説明されたのは、そんなに簡単な話ではなかった。
「麻琴 くん、喫茶店にいる時、突然身体の異変が起きたでしょう?」
先生の言葉を聞いて、喫茶店での出来事を思い返す。そして、ゆっくりと首を縦に振った。
春岡先生は、おれの反応を確かめるように、ゆっくりと話を進めてくれた。
「あれね、ヒートを起こしていたということで、間違いないと思うんだ」
「ヒート……?」
「そう。麻琴くんは、初めてのヒートがまだだったよね。だから分からずに戸惑ったかもしれないけど、大丈夫。ヒートは病気じゃないからね」
先生の言葉をゆっくりと噛み砕きながら聞いていたけど、あれ? っと気付いて首を傾げた。
そんなおれをちゃんと見ていてくれた先生は、どんどん話を進めることはせず、おれからの言葉を待ってくれた。
「でもおれ、ちゃんと薬飲んでたのに……」
オメガと診断された時から、ヒートが来ていなくても定期的な受診と、発情抑制剤を飲むことが義務付けられている。
おれは定期検診も抑制剤の服用も欠かしたことはなかった。
いつも側にいた蒼人 が、きっかりと管理してくれていたからっていうのもあるけど。
「そうだよね。麻琴くんは検診にちゃんと来ていたし、薬の服用もしっかりしていた。蒼人くんからも話を聞いているよ」
「じゃあ、なんで……」
抑制剤を飲んでいれば、たとえ外出先でヒートになってしまったとしても、記憶を飛ばすほど重くはならないはずだ。
ただ例外もあって、遺伝子的に最高に相性の良い『運命の番』と呼ばれる二人が出会った時は、抑制剤などは全く効かないという話を聞く。
じゃあ、あの場に運命の番がいた可能性も……?
「いや、あの場に麻琴くんの運命の番はいなかったと思うよ」
先生はまるで、おれの頭の中をそのまま覗き込んでいるかのように、考えていることへの答えを出してくれた。
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