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15. 本当の気持ち ②

 こんなに簡単なことだったんだ……。  ほわりと胸が暖かくなる。優しくて愛おしい思い。  このまま、蒼人にこの気持ちを伝えたい。    うっとりとした幸せな感情に少しの間に包まれていたけど、はたと我に返った。   「──っ! だめ。言えるわけがない!」  唐突に、佐久くんの『婚約をしたという噂を聞いたんだ』という言葉を思い出す。……と同時に、後頭部を鈍器で殴られたようなショックを受けた。  そうだよ。大切なことを忘れるところだった……。危ない。浮き立った気持ちのまま、とんでもない失態を犯すところだった。  コンコンっとドアを叩くノックの音と、「もう、入っても大丈夫?」という蒼人の声が聞こえてきた。  まだ心臓がバクバクしてたけど、小さな深呼吸を何度か繰り返して、気持ちを落ち着かせる。大丈夫、平常心平常心。 「……あ、うん。大丈夫。もう先生も部屋から出て行ったよ」  何事も無かったかのように普段通りに返事をすると、ドアを開けて蒼人が入ってきた。 「なんの話だった?」 「これからの生活の事とか。薬の内容を変えてみようとか、そういう話」  当たり障りの無い、普通にあり得る話をした。薬を変えるなんてひとことも言ってなかったけど、それっぽいことが言えたなって思う。 「そっか。オメガの事は、オメガの先生が一番だもんな。……俺は、そういう事は相談に乗ってやれないし……」  少し寂しそうに言ったあと、あっ……と思い出したように話題を変えてきた。 「詳しい話は体調が良くなってからで良いけど、今少しだけで良いから、話を聞けないか? って、警察の人が来てるんだけど……。麻琴、話せそうか? 無理しなくても良いんだぞ?」  こんな事があったあとだから特に、過保護に拍車がかかっている感じがする。  でも、自分の気持ちに気付いたからなのかもしれないけど、おれが特別な存在のような気がして、嬉しくなる。  ……たとえ、この先、蒼人の隣にいるのがおれじゃなかったとしても──。  胸がチクリと痛んだ。この胸の痛みは、おれの蒼人への思いゆえだったんだ……。  そのあと警察の人が来たから、おれの覚えてる事を伝えた。  あの日一緒にいた佐久くんには、先に話を聞いてきたらしい。それについても、おれの体調が回復したら話をきかせてくれるとのことだった。  そして、おれの次は蒼人の番だった。  佐久くんから太陽に連絡が行って、太陽が蒼人に連絡をしてくれたらしい。 「麻琴は疲れるだろうから、休んでるといい。俺は警察の人と別の部屋で話をしてくる」  そう言って部屋を出ようとしたのを、おれは引き止めた。……あの日の真実を知りたいから。  蒼人はそっか……と小さく頷くと、「麻琴の具合が悪くなったら困るから、春岡先生にも同席してもらおう」そう言って、先生を呼びに行った。  そして先生の到着を待って、蒼人はあの日の出来事を静かに話し始めた。

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