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18. 友達からの電話 ③
ちょっと待っててね……と、病室を出て行った先生は、少し経って子機を持って戻ってきた。
おれの病室は、ナースセンターの隣。──つまり、症状がそれだけ酷かったということを意味する。
それでも落ち着いたから、明日には一般病棟に移ることになっている。とは言ってもここの病棟は全室個室なので、部屋の移動があっても正直あまり実感がなさそうだった。
「…もしもし?」
『もしもし! 由比 くん? 月歌 だけど! 体調はどう? 大丈夫? 少しは良くなった?』
恐る恐る受話器に向かって声を出すと、電話の向こうからは、食い気味に体調を尋ねる飯田くんの声が聞こえてきた。
『こら、そんなに畳み掛けるように言ったらだめだろ? 由比くんが困ってしまうよ』
『……あ、そうだよね。ごめんね』
嗜めるように優しく言う佐久くんと、少し声のトーンが下がった飯田くんの声。会うのは緊張してしまうけど、いつもと変わらない二人の声に、少しホッとした。
このまま、二人との関係も変わらずいてほしかったけど、そんな都合の良い話はない。いずれ、蒼人と飯田くんの関係がおおやけになれば、おれを取り巻く人達の関係図は、あっという間に形を変えてしまうだろう。
二人との電話は、特に何があるというわけではなく、おれの体調を気遣うものだった。特に飯田くんは同じオメガでヒートの辛さを知っているから、心底心配しているようだった。
『ほんと、無理は禁物だよ? 特に初めてのヒートは、身体が慣れていないから大変なんだ』
『もういいだろ? 由比くん、また元気になったら、みんなで出かけようね』
「うん……ありがとう」
おれからは多くは話さなかったけど、気遣いに感謝しつつ電話を切った。
でも。
あれ? ……なんで飯田くんが、ヒートのこと知ってるんだろう?
ヒートはプライバシーに関すること。いくら友達でも、簡単に言っていいものではない。
その時のおれは、佐久くんが話したのかな? くらいの軽い気持ちで流してしまったけれど、そんな軽いものではない本当の理由は、後から知ることとなる。
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