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25. 二度目の入院 ①
ここは、どこなんだろう。
水の、中……? 空の、上……?
それとも……?
身体がふわふわとしてて、地面を踏みしめている感覚がない。
頭もボーッとして、靄がかかっていて、途切れ途切れに映像のようなものが流れてくるけど、それが何なのか判別が出来ない。
痛くもないし、苦しくもない。
もしかして、ここは、そういうところなのかも知れない。
それなら、あれが最後だったのなら、本当の気持ちだけでも伝えればよかった……。
言い合いしたのが、最後だなんて……。
蒼人 の笑顔が脳裏に浮かんできて、胸が苦しくなる。
ごめんな、蒼人──。
一筋流れ落ちた涙とともに、僅かに戻った意識も、再び混濁の中に飲み込まれていった。
再び意識が浮上してきたのは、全く聞こえなかったはずの音が、耳に僅かに届いたから。
ううん。相変わらず、他の音は聞こえない。ただ、この声だけはおれに届く。
大好きな人の、声だから。
心地よい声に誘われ、ゆっくりと目を開けると、やっぱり目の前には『おれの唯一』が、いた。
「気分は、どうだ?」
心配そうに問いかけながら、蒼人はおれの頭を優しく撫でる。
いつもの、蒼人だ。あの時の電話の向こう側から聞こえた声とは違う。
優しくて、おれを大切に思ってくれている声だ。
「ん……。こ……こ……」
返事をしようと声を出してみたけど、思うように出てこない。喉が張り付いたように違和感がある。
それならばと、身体を起こしてみようと思ったけど、身体も思うように動かない。
「無理するな。まだ薬が完全に切れていないんだろう」
薬……?
声が出ないから、僅かに首を傾げ、目で問いかけた。
「心配するな。身体を休めるためのものとか、あとは栄養剤だ」
まだ記憶が曖昧で、自分の身に何が起きていたのか、思い出せない。
学校にいたはずなんだけど……。
「うっ……」
思い出そうとしたら、頭がズキリと痛んだ。
「無理するなと言ってるだろう? 今はゆっくり休んで、体調を万全にすることが優先だ」
蒼人はおれが安心するように、極力優しい声で言いながら、ゆっくりと何度も頭を撫でてくれた。
そのまま再びウトウトと眠りにつき、次に目を覚ましたのは、窓の外がすっかり暗くなってからだった。
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