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24. 社会科の先生のヒート ③
そのために、オメガの本能が『佐久星司 』を求めて、フラフラと引き寄せられるように近付こうと一歩踏み出したのだ。
「ちょっと待って、先生! そっちはダメ!」
力のかぎり引っ張るけど、びくともしない。どうしよう。
軽くパニックになっていると、おれ自身もなにか様子がおかしい。
喫茶店で感じたような急激な変化ではないけれど、じわじわと身体が熱くなってきた。
……まさか、ヒート!?
アルファのフェロモンやヒート中のオメガのフェロモンの影響を受けて、他のオメガもヒートを誘発されることがあるらしい。
やばい。どんどん熱くなるし、呼吸も苦しくなってきた。
ハァハァと短く息を繰り返す。
おれまで自我を失ってしまったら、この場が地獄絵図になるのは目に見えている。
どうしよう。どうしたらいい……?
意識が徐々に朦朧としていく中で、必死に考える。……でも、もう何がなんだかぐちゃぐちゃで、思考なんてまとまらなくなってきた。
もう、いいじゃん……。アルファとオメガなんだしさ、自然の流れに任せよう──?
脳内で、悪魔のささやきが聞こえる。
そうだね。身を任せちゃえばいいんだ。抗う必要なんてないんだよ……。
頭の中の靄がどんどん増えてきて、おれから思考能力を奪っていく。
でも……せめて、先生だけでも……。
僅かな意識の中、振り返って庇うように先生に抱きついた。
蒼人、ごめん……。
思考を放棄しようとしたその時、頭の中に浮かんできた蒼人の笑顔に、おれは無意識に謝った。
──ガリッ
背を向け先生に抱きついたのとほぼ同時に、強烈な痛みが走る。
うっ……。
意識を失いかけているおれでは、何が起きたのか理解が出来ない。
自分の身体が自分のものじゃないみたいに、全く動かせない。
目は開けているのに、何も見えない。耳からは、音が何も拾えない。
さっき感じた痛みも、今はもう何も感じない。
何も分からないまま、おれの思考は完全に停止した──。
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