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32. 両親への挨拶 ③

 虹汰(こうた)さんは、ニコニコしながら言うし、紅音さんもくすくす笑うし、おれの両親だってそうだ。  気付いていなかったのって、やっぱりおれだけだったということか? 「蒼人はね、麻琴くんも知っての通り、口数が少ないだろう? これからは何でもちゃんと話し合って、二人協力して過ごしていくんだよ?」  極秘の治験だったとは言え、初めから相談していれば何か他の手段があったかもしれない。  そうしたら、今回のおれを取り巻く事件は起きなかったかもしれない。  タラレバで話をしても仕方のないことだけど、これから改善していくことは出来る。 「今回のことは、おれも蒼人も対話が足りなかったのかもしれない。おれも、自分の中で抱え込まないで、まっすぐにぶつかって聞けばよかった。……もうあんな思いはしたくないから、これからはもっとちゃんと話し合おうと思う」  みんなが揃っているこの場での、おれの決意表明だ。  この先ずっと蒼人と手を取り合って、歩んでいくと決めたんだから。 「うんうん。言葉にするのは大事だ」  今度は、おれの父が口を開いてそう言うと、じゃあ……と、話を続けた。 「三月末までは今の寮に住んで、四月からは施設内のアパートで生活しながら、敷地内にある大学へ進学するということだな?」 「うん」 「いやらしい話になってしまうけど、お金の面に関しての確認なんだが……」  両親に進学のことを話したのは、つい先日だ。  入学金や授業料など諸々準備もあるから、心配してしまうのは当たり前だ。 「大学については、奨学金を利用しようと思っている。その後そのまま製薬会社に就職すれば返済不要になるものもあるし。アパートについては学生アパートがあるし、治験者には支援もあるから、うちの負担は少ないと思う。詳しい資料はまた持ってくるよ」  付き合う報告から始まって、今後の進路など含めたくさん話しがあって、朝から話していたのに気付いたらもうお昼になっていた。  お昼は出前でも取ろうか? という申し出を、これから人に会うからと断り、「アパートに引っ越す前に、おれの部屋の荷物を取りに来るよ」そう言って家を出た。

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