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番外編 夏祭り(蒼人視点)⑥
「えーっ! なんでぇ!?」
りんご飴片手に、愕然とする麻琴。
手のした飴をよく見ると、表面はベトベトに溶けて昨日のキラキラしたきらめきは、見る影もなかった。
りんご飴は本来ならばその日のうちに食べるのがベストらしい。飴でコーティングされているから、冷蔵庫保管でもやはり溶けやすいようだ。
「楽しみにしてたのに、ベチャベチャになってるー!」
ふぇぇぇんと変な声を上げながら、悲しそうにりんご飴を見つめ、困ったように俺を見た。
「あぁ……。冷蔵庫に入れててもだめだったのか……。ごめんな、俺の知識不足だった」
麻琴にはいつでも笑っていてほしいのに、何たる失態。さくっとスマートフォンで調べればよかったじゃないか。
苦渋の表情をしている俺に気付いた麻琴は、りんご飴をテーブルにそっと置くと、パタパタと俺の方に急いで寄ってきた。
「なんで? 蒼人は悪くない。飴が溶けちゃっても、りんご飴は美味しいはず!」
そう言ってにっこり笑いかけると、再びテーブルへ戻りりんご飴を手にして戻ってきた。
そして俺の目の前で、大きな口を開けてパクっと食べると、もぐもぐしながら俺の前にりんご飴を差し出してきた。
「溶けちゃったけど、美味しいよ? はい、あーん!」
言われるがままに口を開けりんごをがぶり。ちょっとベタベタが気になるが、これはこれで美味しいかもしれない。
何回か交互に食べて完食した頃には、口周りが真っ赤になってしまっていた。溶けた分昨日よりひどいかもしれない。
洗面台で口元を洗いきれいにし、身支度を終え、朝食会場へ向かった。
大きな広間に、各グループごとにテーブルが用意され、そこに朝食が並んでいた。
やはり地元食材をメインで使った料理らしい。魚の干物と味噌汁がとても美味しかった。
「あー、おなかいっぱい! 美味しかったね」
りんご飴のことでは麻琴に悲しそうな顔をさせてしまったけど、旅館の朝食のお陰で気持ちも持ち直したように思う。
部屋に戻って帰り支度をして、チェックアウトの手続きをした。
「ありがとうございました」
「お世話になりました」
女将さんをはじめ見送りに来てくれた方々へ挨拶をして宿をあとにした。
帰りはゆっくりと車窓を眺めながら電車に揺られ、楽しかった思い出話に花を咲かせていた。
家に帰り片付けを済ませると、勢いよく走ってきた麻琴が、俺に飛びついてきた。
「これで、七夕のリベンジ全部出来たね! 蒼人、ありがと!」
麻琴からの感謝の言葉とともに、頬に落とされた可愛らしいキス。
俺が七夕のリベンジを気にしていたことは、すっかりバレていたようだ。
そんな思いも含めて、麻琴は俺に抱きつき喜びを表してくれた。
やはり、麻琴には敵わない。
俺がリードして引っ張っているつもりでも、結局俺は麻琴に翻弄され続けているんだ。
それでも譲れないことはある。
「じゃあ、お礼はもちろん……」
旅行から帰ってきて疲れているなんてお構いなしに、俺は麻琴にお礼の催促をしてしまう。
次の日の朝、散々抱き潰して動けなくなった麻琴の説教を食らったのは、言うまでもない。
(終)
✤✤
思いの外長くなってしまった「夏祭り」これで完結です。
X上で毎月お題を出して書いているお話の転載となっています。
蒼人視点は、どうもムッツリ蒼人がしっかりとさらけ出されるようです🤣
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