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番外編 夏祭り(蒼人視点)⑤
部屋の中から見られるというのも良かったようで、自分の苦手な大きな音にも関わらず、麻琴 は次々と打ち上げられる花火に釘付けになっていた。
「蒼人 ! 露天風呂入ろう!」
可愛い麻琴と、俺にだけ見せる色っぽい麻琴。どちらも好きでどちらも捨てがたく、俺は理性と本能の狭間で揺れていた。
……なんて言うと大げさに聞こえるが、露天風呂に入るということは、俺の理性が試されるということだ。
せめて花火が終わるまでは……。
自分に言い聞かせるように、心の中でグッと手を握りしめると、何事もないように麻琴に笑顔を見せた。
「窓を開けても、大丈夫そうだから、露天風呂もいけそうだな」
時計を見ると、花火終了まで20分程度だ。これから露天風呂に入って花火を見終えるのにはちょうどよい時間かもしれない。下心を隠しつつ、俺は麻琴と露天風呂に入った。
引き続きどんどん打ち上げられる花火。昔の花火は原色が多かったのが、今はパステルカラーなど色彩豊かになっている。形も様々で、趣向を凝らしていて面白い。
麻琴が怖がらないように俺の前に座らせ、後ろから包み込むようにしての花火鑑賞。
コロコロ表情が変わる麻琴を真正面から見つめていたいというのが本音だが、そんなことをすれば蒼人邪魔!と言われるのが目に見えている。そんな風に怒る麻琴も可愛いのだけど。
そこからは、あまりの迫力に、ふたりとも無言で空を見続けていた。
祭りに関わる全ての人達の思いを感じつつ、こうやって今日一日麻琴と楽しい時間を過ごせたことに感謝をする。
そして、打ち上げ花火で感動のフィナーレを迎えた夏祭りは、幕を閉じた。
そのあとは、まぁ、勿論と言うか何と言うか。
前回の温泉旅行に引き続き、俺達は熱い夜を過ごした。
ただ、次の日には差し支えないように、控えめにしたつもり……?
◇
次の日、ちょっと起き辛そうにしていた麻琴だったけど、昨日残したりんご飴を食べるのを楽しみにしていたので、這うようにして起きてきた。
「蒼人、おはよう! 昨日の花火すごかったね。おれ、あんなすごいの産まれて初めてだったよ」
昨日の花火を見て興奮冷めやらぬ様子でそう言う麻琴は、本当に純粋で可愛い。
小さい頃からほとんど俺と行動を共にしていて、その俺が知らないうちに、実は夏祭りと花火が経験済みだなんて言われたら、嫉妬して問い詰めてしまったかもしれない。
「朝ごはん前だけど、昨日のりんご飴食べてもいいかな?」
「ここを出る前に食べちゃわないとな」
「うんっ」
冷蔵庫と俺を交互に見ながら言う麻琴に、おれは同意した。
麻琴は嬉しそうに冷蔵庫へ向かい、りんご飴を取り出したのだが……。
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