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番外編 夏祭り(蒼人視点)④
「美味しいけど、夕飯食べられなくなっちゃうから、もうやめとく」
口のまわりに付いた飴をペロペロ舐める様子に、俺はゴクリと喉を鳴らした。
いや、ここで手を出しては駄目だ。花火を見るまではだめだ。
心を無にして「俺も」と、りんご飴を同じく4分の1程度食べた。
「うん、美味しいな」
半分ほど残し、次の日に食べようと冷蔵庫にしまった。
少しの間、風景を楽しんだりしながら部屋の中を見て回っていると、程なくして夕飯が運ばれてきた。
「うわぁー! すごい、美味しそう!」
夏祭り御膳というらしい。地元で取れた食材をふんだんに使った、涼を感じることの出来るメニューで、食べ切れるのか心配になるほどのボリュームだ。
麻琴は楽しそうに料理の写真を何枚か撮ると俺を手招きして、仲良く並んで自撮りで料理も込みで記念撮影をした。
「いただきまーす」
手をパチンと合わせると、再び目を輝かせて、箸を手にした。俺もそんな嬉しそうな麻琴を眺めながら、料理をいただくことにした。
美味しく夕飯をいただき、片付けも済み、布団も敷いてもらった。
あとは花火だけだと思いながら時計を見ると、19時30分を示していた。花火の打ち上げは20時からだったはずだ。
「最初は部屋で窓を閉めて花火を見る?」
花火の大きな音を克服したわけではないから、まずは部屋での鑑賞を提案してみた。
おれとしては、露天風呂でイチャイチャしながら花火を見たいところだけど……。
「うーん……。でもせっかくだから、露天風呂に入りながら見たいなぁ」
「でも、打ち上げ時間は1時間程度らしいよ?」
「そんなに長いの? そしたらおれふやけちゃうなぁ」
ちょっと困ったように、くしゃりと顔を崩す麻琴が可愛い。
「まずは部屋で窓を閉めて、次に窓を開けて、大丈夫そうなら露天風呂で見るのは?」
ゆっくり段階を踏んでいけば、少しずつ音にも慣れるだろう。
「うん、そうだね」
俺の膝の上で、どんな花火だろうねとワクワクした様子で話す麻琴が可愛くて、俺はうんうんと相槌を打ちながら、話を聞いていた。
ドーン
予定時刻になり、大きな音とともに夜空に大輪の花が咲いた。
窓を閉めているおかげか、花火が連続で打ち上げられても大丈夫なようだ。
夜空が大きな花火で色づくたびに、歓声をあげる。
「すごい、すごーい! ねぇねぇ、蒼人! 窓開けてもいい?!」
目を輝かせて振り返った麻琴の笑顔は、どんな花火よりもきれいだ。
「麻琴が大丈夫なら、窓を開けてみよう」
大丈夫かな? と心配しつつ、ゆっくり窓を開けてみた。ドーンと打ち上げる音に、ちょっとびっくりしながらも、更に迫力を増した花火に、再び大きな歓声をあげた。
「わぁぁぁぁ! すごいよ! 音が大っきくなったら、なんか、バーンってすごいの!」
人間は、興奮すると語彙力を失うのだろうか。
麻琴の言葉は、まるで幼稚園児のようになっていたが、それもまた可愛い。
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