112 / 126
番外編 夏祭り(蒼人視点)③
背中におんぶされながらも、初めて見るものばかりなのか、あれ何? とか、すごいねーとか、ずっと話しかけていた麻琴 が、急に静かになった。……と同時に、背中に重みが加わったような感覚があった。
あれ? と思って、麻琴? と呼びかけるけど、返事がない。そのうち、すーすーという寝息が聞こえてきた。
「はしゃぎ過ぎて、疲れちゃったんだな」
慣れない浴衣と下駄での外出。お祭りという気分が高まる空間。
七夕に二人で浴衣を着て、お祭りに行って花火を見る計画が叶わなかったし、リベンジ温泉旅行では、麻琴を無理させすぎて二日目に計画していた観光がキャンセルになってしまった。
今回こそはと計画した旅行。二人で浴衣を着てお祭りにくり出す……まではリベンジ出来たから、今夜の花火を一緒に見られたら完璧だ。
七夕の時も、麻琴が怖がらずに花火を見られる宿を予約していたのに、行くことは叶わなかったから、今度こそはと思っている。
……なのに、背中ですーすーと気持ちよさそうな寝息を立てる麻琴に、どうしたもんかと考えながらも、とりあえず宿まで寝かせたまま戻ることにした。
麻琴をおんぶしたまま宿へ戻ると、あらあら……と言いながら女将さんが急いでやってきたので事情を話すと、奥から絆創膏を持ってきて、手際よく手当をしてくれた。
「んー? もうあさぁ~?」
背中から、なんとも間の伸びた可愛らしい声が聞こえてきた。女将さんが足を触っていたからか、麻琴が目を覚ましたようだった。
「お目覚めですか? お部屋に案内しますね」
女将さんに声をかけられると、「えっ」っと声がしたと思ったら、背中でジタバタと暴れ出した。
「わっ! もう宿に着いてたんだね! もう、蒼人 、なんで起こしてくれないの!?」
ワーワーと騒ぎながら背中から降りようとするけれど、構わずそのまま女将さんの案内で部屋まで向かった。
部屋へ入ると、目の前には湖が一望でき、あたり一面夕焼けに染まっていた。
夕焼けに染まる景色を見ながら先に軽く汗を流し、部屋着として用意されていた浴衣に着替えた。
そしてテーブルの上には、ポツンと置かれたりんご飴。
「もうすぐ夕飯だけど……せっかくお祭りで買ったから食べたいな」
「そうだな。半分食べて、のこりは明日の朝にしようか」
俺の提案に、麻琴は嬉しそうに頷いた。
「では、いただきまーす」
りんご飴を目の前にしてキラキラ目を輝かせていた麻琴は、満面の笑みでひとくちガブリ。
「飴のところ、美味しいー。でもまだりんごに届かないよ?」
困ったように言いながら、何度かハムハムとかじると、上手に飴とりんごを食べることができたようだ。
「んーっ! おいひーっ」
口の周りを真っ赤にして、満足そうにパクパクと食べ進めていた麻琴は、4分の1程度食べたところで、ふぅ……と息を吐いた。
ともだちにシェアしよう!