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14. 糸を繋ぎ直す
「親になって初めて気付かされることも多く、私たちはこんなに大きな愛で包まれていたのだと、ようやく知ることが出来ました。あの頃の私たちは若かったのだなと感じています。もっとしっかりと話し合っていれば、逃げるようにして家を出なくとも、別の道があったのかもしれないと今なら思えます」
そこまで言うと、星司 くんは僕の手をきゅっと握りしめ、同意を求めるように僕を見た。だから僕も同じ気持ちだよって、うんうんとうなずいた。
僕の気持ちを確認したあと、星司くんはふうと深呼吸をしたあと、思い切ったように言葉を続けた。
「もし許していただけるのなら、これからも度々こちらへ足を運び、雪夜 の成長を一緒に見守っていただけたら嬉しいと思っています」
言い終えたあと、星司くんは再び深く頭を下げた。
その姿を見ていたおじい様は、パンパンと大きく拍手をすると「星司と月歌 くんの気持は良くわかった」と言って大きくうなずいた。
そして、星司くんのご両親と僕のお母さんたちの方を見ると、「どう思うかね?」と、言葉少なに問いかけた。
「星司も月歌くんも私の息子だし、雪夜くんは初孫。これからはもっとたくさん会いたいし、出来ることなら、家に帰ってきてほしいと思っているわ」
真っ先にそう言ったのは、星司くんのお母様だった。それに続くように、ハンカチを握りしめ鼻を鳴らす僕のお母さんが、ぽつりぽつりと話し始めた。
「月歌の気持ちも考えないで、星司くんと別れなさいなんて言ってしまって、ずっと後悔していたの。久しぶりに顔を見ることが出来て、幸せそうなあなた達を見たら胸がいっぱいで、何から話してよいのか……」
お母さんはそう言って、再びハンカチに顔を埋めた。そして皆の視線は、星司くんのお父様の方へ集まった。
けれど、星司くんのお父様は僕たちをちらりと見ると、視線を外し俯いた。
ああ、やっぱり快く思っていないのだろうか。そう思うと胸が締め付けられるような思いだけど、お父様の態度には納得もできた。
三人であの問題を引き起こしてしまったのに、お父様が全責任を負わされ、社長の座も解任されてしまった。複雑な思いを抱えているに決まっている。
「まったく、いつまでも子どもみたいに拗ねてるんじゃないわよ!」
黙ったままのお父様に、お母様がそう言いながら背中をバシバシと叩いた。
「この人ね、社長を解任されるし、星司と月歌くんは家を出ていってしまうし、しばらく抜け殻状態だったのよ。まぁ、それだけのことをしてしまったんだから、十分罪を償ってもらわないといけないけどね」
そのあと、ハンカチで顔を覆ったままの僕のお母さんの方を見た。
「それに、香織 さんには感謝しないといけないのよ。へにゃちょこになったうちの人の背中を、私と一緒に叩いてくれたんだから。香織さんだって、月歌くんが家を出てしまって悲しいはずなのに、一緒に励ましてくれてね。本当に心強かったのよ。……だからね、この子達が元気なのは確認できたんだし、今度は私達が元気なところを見せないと!」
そう言って、再びお父様の背中をバシバシと叩いた。
お母様って、こんなにたくましかったっけ……?
その後、改めて僕たちが家を出たあとのことをお互いに話した。
お父様の腑抜けっぷり(だってお母様がそう言うから……)がいかにひどくて情けなかったかという話を聞き、何もリアクションを取ることができず、苦笑いをするだけだった。
僕たちからの報告は、とても良い人達に恵まれ、慎ましいながらも幸せな生活を送ってきたから大丈夫だよ、心配かけてしまってごめんねと伝えた。
お互いの近況を話し終える頃には、だいぶ緊張もほぐれ、ゆったりとした時間を過ごすことができた。
星司くんと二人で悩んだけど、思い切って実家に顔を出しに来て本当に良かったと思う。……これも、みんな雪夜のおかげだ。家族との糸を繋ぎ直してくれた、かけがえのない存在なんだと実感した。
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