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15. お花見日和

 麻琴(まこと)くんたちと再会してから、四回目の春がやってきた。  先週はまだ肌寒い日も多かったけれど、週末辺りから急に気温も高めの日が続き、公園の桜も満開に近づいていた。風もなく穏やかな今日は、絶好のお花見日和だった。  ちょうど去年のお花見の時期に、僕は二人目の妊娠が判明した。そのことを実家に報告すると、戻ってこないかと言われた。  僕と星司(せいじ)くんは、たくさん話し合った。逃げるように家を出た、素性もわからない僕たちを迎え入れてくれ見守ってくれた町の人々に、まだ十分な恩返しも出来ていない。そんな状態で実家に戻ってしまって良いものかと。  けれど僕の妊娠が判明した時、オメガ保護施設はオープンしてから半年が過ぎていた。初めは不慣れだった従業員たちも、だいぶ落ち着いてきていて、僕たちが手伝わなくてももう大丈夫だと思った。  それに、大きなお腹で雪夜の入園準備をしなければならないし、生まれたばかりの赤ちゃんを連れて、幼稚園の送迎や行事にも参加しなければならない。  そんなことをたくさん二人で話し合った結果、僕たちは実家に戻ることに決めた。  実家に戻ると至れり尽くせりで、こんなによくしてもらって良いものかと申し訳ない気持ちになった。僕たちは逃げるように家を出たのに、みんなとても優しくて、僕は部屋でこっそり泣いてしまった。  そして今年の一月。僕は無事第二子となる女の子を出産した。名前は四葉(よつば)。僕の妊娠が判明した時に、雪夜が四つ葉のクローバーを見つけてくれたから、幸運が舞い降りますようにって四葉にしたんだ。  でも今日は四葉はお花見には来ていない。まだ小さいというのもあるけど、四葉が生まれてどうしても手がかかってしまって、雪夜にさみしい思いをさせてしまっている。だからゆっくり雪夜との時間を作ってあげなさいと、お母様が預かってくれることになった。  せっかくお花見をするならばと、麻琴くんに連絡してみたら、蒼人(あおと)くんも一緒に行けるからと返事が届いた。その勢いで麻琴くんは太陽くんにも連絡したみたいで、太陽くんもお花見に参加できることになった。  レジャーシートを引き、朝から張り切って作ったお弁当を広げていると、遠くから僕たちを呼ぶ声が聞こえた。 「おーい! 月歌(るか)くーん! 星司くーん! 雪夜くーん!」  大きく手を振り、ぴょんぴょん跳ねながらこちらに近付いてくる麻琴くんと、隣でその様子を見守りながら歩く蒼人くん、更にそのとなりには太陽(たいよう)くんが並んで歩いていた。 「あ、きたきた。こっちこっち!」  僕は同じように大きく手を振って、麻琴くんたちに合図を送った。僕のとなりでは雪夜も同じように、精一杯の声で麻琴くんたちの名を呼びながら、ぴょんぴょん跳ねていた。 「誘ってくれてありがとう!」 「これ、俺と麻琴で作ったんだ。食後のデザートにどうぞ」  そう言って蒼人くんが差し出してきたのは、可愛らしい器に入ったプリンだった。 「わぁっ。かわいいぷりん! これたべていいの?」 「ご飯ちゃんと食べてからね」  キラキラと目を輝かせながらプリンを見る雪夜と、同じように目を輝かせてプリンを見る麻琴くん。  ああ、これはきっと蒼人くんがひとりで作ったんだろうな……。そう思って、僕は思わずぷっと吹き出してしまった。  そんな僕を不思議そうに首を傾げてみる雪夜と麻琴くん。25歳ほどの年齢差があると思えないほど、動きがシンクロしていて、その様子に気づいた他のみんなも、クスクスと笑い出す。  こんな穏やかな日々が、再びやってくるとは思わなかった。あんなことをしてしまった僕たちに、麻琴くんたちに会う資格なんてあるわけなかったのだから。  麻琴くんたちの寛大さと、僕たちを信じて密かに見守っていてくれた、星司くんと僕の家族と、逃げ出した僕たちを受け入れ支えてくれた離島の人たちのおかげで、今この幸せがある。 「みんな、ありがとう……」  わいわいと食事に夢中になっているかけがえのない人たちに向かって、僕は心を込めた感謝の言葉を口にした。 (終) ✤✤ 星司と月歌、これでおしまいです。 お読みいただきありがとうございました。 はじめは、麻琴たちとのあいだにあった出来事の謎解き?的な、麻琴の知り得ないことを月歌視点からお送りしようとしていました。 でも、これはBがLするジャンルですので、事件の紐解きよりも、二人の救済の物語にしたいなと思ったのです。 なので、事件は何も起こさず、ただひたすらに穏やかな日々を送ってほしいと思いながら書きました。 少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。 さて次は、太陽だなー。まだお相手決めていません(笑) 一ノ瀬麻紀🐈️🐈‍⬛

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