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09 キッズスペース

「じゃあ、甥っ子さんとたくさん遊んだんですね」 「男の子だから、元気なんだよなぁ。公園に行ったり、ちょっとしたアスレチックに行ったんだけど、オレ、こんなに体力なかったかなってびっくりしたよ。……やっぱり歳には勝てないなぁ」 「太陽(たいよう)さんは、歳なんかじゃないです!」  オレは動かしていた手を止め、隣にいる凛太郎(りんたろう)を見た。 「なんでお前が、そんなにムキになって反論するんだよ」 「だって、太陽さんが歳とか言うから……」  口を尖らせて、ぶつぶつと何か呪文のように呟く凛太郎を見て、オレはぶっと思わず吹き出した。  昨日電話で話した通り、凛太郎は朝7:00にはクリニックにやってきた。  一緒にクリニック内に入り、先に運んであった荷物を全て広げた。  オレがなぜこれを買ってきたのかとイメージを伝えた上で、凛太郎のイメージとアイディアをすり合わせ、配置を決めていった。  キッズスペースの提案をしたのは凛太郎だ。だからなるべくなら全部凛太郎にやらせたかったのだけど、予定外のことが起きてしまい、材料はオレが準備することになった。  だからせめて、キッズスペースの配置とか最終決定は凛太郎にしてもらいたい。 「オレはなぁ、凛太郎より10歳も上なんだぞ? しかも平凡なベータだ。20代のアルファの凛太郎とは、基本的な作りが違うんだよ」 「確かに僕はアルファですけど! でも、太陽さんはいつも元気で明るくて、若々しいです!」 「ははっ、お前な、本当に若い奴には『若々しい』なんて言わないんだよ」  懸命にフォローする凛太郎に申し訳ないけど、オレはおかしくて腹を抱えて笑ってしまった。  隣を見ると、不服そうにプーっと膨れっ面をした凛太郎がいて、堪えようとすればするほど、笑いが込み上げてきてしまう。 「笑っちゃって悪いな。……さ、続けるか。早くしないとみんな来ちまうぞ」 「はい……」  まだ不満げに口を尖らせたままの凛太郎は、渋々といった様子で作業を再開した。 「よし、完成だ!」 「素敵になりましたね!」  限られた予算と時間で作ったので、簡易的なものにはなってしまったけど、なかなか良い感じにできたと思う。  そのタイミングで、クリニックのスタッフが次々やってきた。 「あれ? キッズスペース?」 「おはよー。おっ、すごいじゃない」 「はい! 今完成したばかりです! どうですか?」 「いいよいいよ、すごく良くできてる」 「ありがとうございます!」  口々にキッズスペースを褒めて、更衣室に向かうスタッフ一人一人に、凛太郎は嬉しそうに返事をした。 「ああ、キッズスペース完成したんだね。……どれどれ? おお、とても良くできているね」  最後に入ってきたのは、春岡先生だった。 「春岡先生! おはようございます。朝早く来て、太よ……天間さんと一緒に完成させたんです」 「買い物も行ってくれたんだよね。お休みの日にわざわざありがとう」 「あ、いえ、買い物は……」 「春岡先生、凛太郎は急な用事ができてしまって、急遽オレだけで行ってきたんですよ。でも、自分で言い出したことなのにって、用事をキャンセルしようとしたから、止めたんですよ」  凛太郎は、春岡先生の言葉に返事しかねていたので、オレが言葉を挟んだ。  実際に、凛太郎は待ち合わせ場所まで来たけど、あの子に付き添うように言ったのはオレだ。 「キッズスペースは、僕が提案したことですし、責任を持ちたかったんです」  凛太郎は自分が不甲斐ないと思っているんだろう。春岡先生から目を逸らし、俯き加減で言った。 「その気持ちだけで嬉しいよ。それに、朝早くから来てキッズコーナーを作ってくれたんだろう? 十分責任を持って最後までできたじゃないか」 「そう言っていただけて、嬉しいです。ありがとうございます」  少ししょんぼりしていた凛太郎だったけど、春岡先生に褒めてもらい、照れたようにぽりぽりと頬をかいた。 「診察も始まるし、ほら、行くぞ凛太郎」 「ハイっ!」  春岡先生にぺこりと頭を下げると、凛太郎は急いで更衣室に向かった。 「太陽くん、凛太郎くんとうまくやっているようだね」 「はい、凛太郎は素直だし、何事にも真面目に取り組むし、将来が楽しみですね」 「うん、そうだね」  オレと春岡先生は、凛太郎が着替えに行った更衣室の方を見て、2人で顔を見合わせ微笑んだ。  初めの方こそ、どうしたもんかと頭を悩ませたものの、凛太郎はちゃんと向き合えば、しっかりと返してくる。  いつでも一生懸命で、そういう意味ではオレの知っているアルファとは少し違うかもしれない。  オレの知っているアルファといえば、飄々として、なんでもそつなくこなしてしまうようなヤツ。  大変そうだとは微塵も思わせず、さらっとやってのける。  でも、大切にしている者への執着はすごい。自分の持てるもの全てを使ってでも、守ろうとする。  そのあたりは、凛太郎にもその片鱗は見えるかもしれない。  でも、なんで凛太郎はオレのことを好きと言うんだろう。  まだ聞けずにいる「やっと会えましたね!」という言葉の意味も、オレを好きと言う理由も、何もわかっていない。  この1ヶ月ほどでわかったのは、凛太郎の言葉には嘘偽りがないこと。  理由は相変わらずわかってないけど、オレのことを好きでいてくれると言う気持ちは、しっかりと伝わってくる。  そして、恋愛経験のないオレにとっては、そのまっすぐな気持ちが、戸惑いのもとになっているのも事実だった。  まだ自分の中で答えは出ていないけど、詩音(しおん)くんのことも含め、しっかりと話さないとなぁ……そう思った。

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