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08 夜中の電話

 週末オレは、実家に帰って過ごした。  姉一家が帰省してくるから、お前も帰ってこないかと連絡が来たんだ。  最近忙しかったし、久しぶりにのんびり過ごす実家は、やっぱりホッと気持ちが落ち着く。  特に母さんは何も言わず、オレの好物をたくさん用意してくれていた。  最近実家に帰ってなかったから、心配かけてんだなーって身にしみて感じたんだ。もっと帰省頻度を増やさないとなと思った。  姉一家が帰ってきていたので、オレは久しぶりに会った甥っ子の遊び相手になっていた。  遊びたい盛りの、小学生になったばかりの男の子だから、まぁ元気が良かった。スタミナは全然切れないし、動き回る遊びが多くて、オレはもうへとへとだった。  こんな時、歳をとったなぁと感じる。20代の頃は若者のつもりでいたのに、30の声を聞いた途端、一気におじさん感が増した気がする。年数としては、そんなに大差ないはずなんだけどなぁ。  母さんにもらったたくさんのお土産を持って、アパートにたどり着いた頃には、もう日付も変わろうとしていた。  冷蔵物だけはしまって、朝シャンにして寝てしまおうかと考えた時、「そういえば」と、忘れていってしまったスマホの存在を思い出した。 「あちゃー」  スマホの画面を見た瞬間、思わずオレは頭を抱え、大きくため息をついた。  想定内というかなんというか、着信履歴とメッセージ履歴が、凛太郎(りんたろう)の名前で埋め尽くされていた。  土曜日の夕方、あんな感じで別れたから、きっとすぐに連絡をくれたんだろう。でもオレは実家に帰省するのに、あろうことにスマホを忘れてしまった。……その結果が、これだ。  まぁ、そうなるなぁ……。  オレは苦笑しながら、メッセージアプリを立ち上げ、メッセージを入力しようとした。  凛太郎なら、オレがスマホを確認したとわかった途端、電話してくると思ったからだ。  もう少し早い時間なら、オレの方から電話をして、心配かけたことを謝ろうと思った。  けどさすがに、日付が変わるような時間だ。ちゃんと話をするのは明日のほうがいいと思ったんだ。  ブーブーブー……  でもその直後、振動と共に、着信の通知が現れた。 「あはは、やっぱりかけてきたか」  先手を打つつもりだったけど、心のどこかで、こうなることを待っていたのかもしれない。  オレはスマホ上部に現れた通知の応答ボタンを押した。 『太陽(たいよう)さん! こんな遅い時間にごめんなさい! 今大丈夫ですかっ?』  きっと不安でしょうがなくて、でもこんな時間だしかけていいのか葛藤しながらも、耐え切れずにかけてきたんだろう。  そんな中なのに、ちゃんと気遣うことを言える凛太郎もえらいと思う。……まぁ、この時間にかけてきた時点で、あまり良くないんだけどな。  オレは、スマホの向こうの慌てているだろう凛太郎を想像し、思わずくすくすと笑い出してしまった。 『太陽さん……?』 「ああ、ごめんごめん。……ちょっとな」 『太陽さん、怒ってますか? 約束したのに行けなくなっちゃったから……』 「いや、あれはオレが言ったことだ。詩音(しおん)くん、ちゃんと家まで送り届けたか?」 『はい、しっかりと送り届けました』 「それならよかった」  オレが、普通に話していることで、少しは落ち着いたのかもしれない。スマホの向こうの凛太郎の言葉が、少し止んだ。  そして少し考えたように、遠慮がちな声が聞こえてきた。 『太陽さんは……なんで僕からの電話に、出てくれなかったんですか? メッセージも未読のままだったし……』 「ああ、それなんだけど……。心配かけてごめんな。実はあのあと実家に帰ったんだけど、見事にスマホを忘れてしまったんだ」 『え? スマホを忘れた? ……それだけ?』 「ああ、それだけだ。だから連絡できなくて悪かったな」  オレの言葉を確認したからなのか、スマホの向こうから、大きく長いため息が聞こえてきた。きっと脱力したんだろうな。 『詩音があんなこと言ったから、太陽さんはオレの言葉が嘘だったんだって、勘違いしたのかと思って……』 「お前にちゃんと確認もしないうちに、勝手に決めつけたりはしないよ。それに、ちゃんとオレと会って話がしたいって言ってただろ?」 『そうですけど……』 「凛太郎こそ、オレの言葉を信じてないのか?」 『えっ……信じてます! 疑ったりしません!』  びっくりしながらも、即答する凛太郎の言葉を聞き、またちょっと意地悪しちゃったかなと思った。   「それなら会った時に、しっかりと話をしよう。オレも、ちゃんと自分の気持ちと向き合ってみるよって、言っただろ?」 『……はい。僕の気持ち、詩音とのことも全部話します』 「わかった。……じゃあもう寝るぞ? あ、そうだ。明日7:00にクリニックに行って、キッズスペース設置するから、来れるようだったら来いよ」 『行きます! 僕が言い出したことなので、ちゃんとやりたいです!』 「了解。でも無理するなよ」 『わかりました!』 「ふわぁ……ああ、悪い。もう寝るよ。おやすみ」 『おやすみなさい。太陽さん、良い夢を!』  こんな時間なのに元気だなぁと思いながら、オレは通話終了ボタンを押した。

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