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17 誕生日のお祝い旅行
「太陽 さーん!」
オレが凛太郎 の家に迎えに行った時には、もう待ちきれないと言った様子で、マンションの前まで出てきていた。
凛太郎はオレの車を見つけると、名を呼びながら嬉しそうに大きく手を振る。見えないはずの尻尾が、大きく揺れている気がするのも、いつもと同じだ。
「待ったか?」
「いえ、全然! 今来たところです!」
凛太郎はそう言うけど、きっと、1時間も前からそわそわしていたんだろうな。
今日は、凛太郎のインターンお疲れ様……と、オレの誕生日祝いを兼ねた、一泊温泉旅行に行く。
泊まりがけの旅行なんて、もしかしてもう付き合ってるのか? って思われるだろうけど、答えはノーだ。
オレにストレートに好意をぶつけてくれる凛太郎には悪いけど、オレは自分の気持ちがまだわかっていなくて、実習終了後に『友達から始めてみよう』という提案をした。
実習生と指導係という関係ではなく、普通の友達としてそばに寄り添い、もっともっと凛太郎のことを知りたいと思ったんだ。
あれから1ヶ月。凛太郎はインターン先でもしっかりと経験を積み、昨日無事インターンも終えた。
春岡クリニックの実習も含め3ヶ月。凛太郎はひとまわりもふたまわりも成長したように感じる。
「もう楽しみすぎて、夜なかなか眠れなかったんです」
凛太郎は、照れたようにそう言って笑った。
◇
「「カンパーイ」」
オレたちは、宿の部屋でワイングラスを傾けていた。
窓の外には、街全体が色とりどりの光に包まれた夜景が広がる。
「あー、いいお風呂でしたね」
「やっぱり温泉は開放感があっていいよなー」
「昼間もめちゃくちゃ楽しかったです!」
「オレはオルゴール館がよかったな。毎日忙しいから、すげー癒された」
「お土産も買いましたしね」
朝に凛太郎の家に迎えにいった後、車で2時間ほど離れた温泉地に向かった。
今日の目的のひとつが遊園地で、その敷地内にあるオルゴール館がオレのお気に入りだ。
遊園地では、絶叫系が好きだという凛太郎がはしゃいでて、微笑ましく……と言いたいところだけど、付き合わされたオレは、へとへとになってしまった。
正直言うと、絶叫系は苦手ではないけど、そんなに続けて乗るもんじゃないと思うんだよ、オレは。
けどやっぱり、楽しそうにはしゃぐ凛太郎を見ているのは、オレもすごく嬉しい気持ちになった。
帰り際に寄ったオルゴール館は、静かな音色が心の中にスッと染み込んでくるようだった。
お気に入りの曲のオルゴールがあったので、これもお土産に買った。
「このワイン、とっても美味しいです。買って正解でしたね」
「そうだな。2人のお祝いだからな、よけいに美味しく感じるよ」
オレたちが2人のお祝いとして飲んでいるこのワインは、昼間凛太郎が購入したものだ。
数日前のオレの誕生日当日に、凛太郎はわざわざ家まで来て、お祝いのメッセージとプレゼントを届けに来てくれた。
なのに、凛太郎はお土産コーナーでワインを手に取り『太陽さん、このワイン美味しそうですよ。誕生日のお祝いに買おうかな!』って言い出したんだ。
オレが『誕生日プレゼント、お前はもうくれたじゃないか』と言うと、凛太郎はすごい勢いで『何言ってんですか。太陽さんの誕生日は僕の中で一大イベントなんです。当日は当日ですし、今日は誕生日のお祝い旅行なんです。ここでも祝わないでどうするんですか』って言いながらぐいっと迫ってきて、オレは苦笑いしながら『全く、お前ってやつは。……じゃあ、今夜宿でこのワインで乾杯するか』と言って、首を縦に振ってしまった。
――というのが、昼間の出来事。
約束通り、今2人でワインで乾杯しているのだけど、買って正解だったな。口当たりも滑らかで、とても飲みやすい。
「改めまして、太陽さん、お誕生日おめでとうございます!」
「ありがとな。凛太郎も、インターンシップお疲れ様。……どうだった?」
「はい、とても興味深いものばかりでした。それに、お世話になったお二人もとても良くしてくださったので、有意義な時間が過ごせました」
「あいつら、面倒見いいからな」
凛太郎がインターンシップに行った会社は、麻琴 と蒼人 の勤務先、シンセンス研究所だった。主に第二の性に関する、薬の研究開発をしている会社だ。
高校時代に、蒼斗が治験に参加していた会社なのだけど、まさかあの2人が就職するとは思わなかったし、そこに凛太郎もインターンで行くなんて思わなかった。
しかもこの会社、高校時代の同級生、星司 の祖父が会長を務めている、八重製薬グループなんだ。世の中狭いよなぁ……。
「今日は、旅行に誘っていただき、本当にありがとうございます。僕、こんなにずっと太陽さんと2人きりでいられるなんて、夢みたいです。こうやって、ワインでお祝いできるなんて、僕も大人になった気分です」
「あはは! オレよりはまだまだ若いけど、凛太郎もちゃんと大人だからな? にしても、こうやって酒を酌み交わすことになるとは、実習初日には考えられなかったなー」
幾度となく、凛太郎と出会ったあの日のことを思い返す。
その時は何が何だかわからなくて、現実から逃げてしまおうかと思ったくらいなのに、今じゃ2人きりで一泊旅行をし、酒を酌み交わしているんだもんな。世の中何があるかわかんないよな。
オレは、再びワインを口に運びながら、この1ヶ月ずっと考えてきたことを、改めて思い起こしていた。
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