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20 これからも一緒に
〜♫
オレが凛太郎 に電話をかけると、近くからかすかに聞き覚えのある音楽が聞こえてきた。
この着信音は、まさか……。
「……凛太郎、そこにいるのか?」
オレは音楽が聞こえた方を向き、声をかけた。
突然立ち上がったオレに、びっくりしたように麻琴 は、ポカンと口を開けている。
今まで気づかなかったけど、いつの間にか近くに座っていた人物の背中が目に入った。
顔は見えないようにしているけど、間違いない。
縮こまったその背中は、一瞬ビクッと肩を振るわせ、ゆっくりと振り返った。
「凛太郎……」
「凛太郎くん!」
オレの少し低めの声と、麻琴の嬉しそうな高めの声で、同時に凛太郎の名を呼んだ。
「あはは。……こんにちは」
バツが悪そうに、凛太郎はゆっくりと手を上げてから、軽く会釈をした。
「ちょっと、こっちまで来い。聞きたいことがある」
「まぁまぁ、太陽 、そんな声出さないのー! 凛太郎くん、久しぶりだね。こっちにおいでよ」
蒼人 の膝の上に座ったままの姿勢は崩さず、麻琴はオレの言葉を制して、凛太郎に手招きをした。
オレは珍しく態度に出てしまったけど、麻琴の声にふっと体の力が抜け、深呼吸をすることにした。
「蒼人さん、麻琴さん、お久しぶりです。その節は大変お世話になりました」
麻琴がその場の空気を和らげてくれたおかげで、凛太郎も少し躊躇しながらもこちらにやってきた。
そして、麻琴と蒼人に挨拶をすると「ここいいですか? 失礼します」そう言って、オレの隣に座った。
「太陽さん、すみません。用事があると言ったのは本当です。でもまだ少し時間があるから、少しだけ様子をみようと思って……」
「それは仕方がないな。友達とはいえ、恋人が他のアルファに会ってるんだから、気になるのは当然だろう」
「そうですよね、蒼人さん!」
「アルファなら当然だ」
思わぬ蒼人からの助け舟に、凛太郎は全力で同意を求めてくる。
そんなの、ベータのオレにはわかんねーよ。
オレは心の中でひとりごちて苦笑した。
「そんなもんなのかね」
「そう言うもんなんです!」
さっきまでバツが悪そうにしていたのを、すっかりと忘れた様子の凛太郎は、その後も『好きな人にはこうしたい』という、アルファなら特に感じる衝動とやらを力説された。
アルファもベータもオメガも、好きな人のことは心配するし、そばで見守っていたくなる……その気持ちは、少しはわかる気がするけどな。
その後も、麻琴と蒼人……特に麻琴からばかりだったけど、オレと凛太郎のことについて、根掘り葉掘り聞かれた。
今まで縁のなかった、オレの恋バナに、麻琴のテンションは上がる一方だ。
「麻琴、もうその辺にしとけ」
「えー、なんでーもっと聞きたいのにー」
ぶーぶー反論する麻琴に、蒼人は耳元で何か囁いた。その言葉に麻琴は一瞬で黙り、頬をピンク色に染めた。
おいおい、何を耳元で言ったんだよ。
「すみません、もう行かなくちゃ。お話に混ぜていただき、ありがとうございました」
凛太郎は時計を見ると、急いで立ち上がった。
「ああ、気をつけて行けよ。帰ったら連絡する」
「はい、待ってます。……それでは失礼します」
凛太郎は大袈裟にお辞儀をすると、バタバタと急いで駅に向かって走っていった。
「騒がしいやつだなー。ごめんな、急に乱入したみたいになっちゃって」
「大丈夫だ。麻琴が会いたがっていたから、タイミング良かった」
「うんうん、話せて楽しかったよ〜。凛太郎くん、かわいいねー!」
特に深い意味もなく言った言葉なんだろうけど、蒼人のこめかみがぴくっと動いた気がした。
そして、なんの悪気なしにそう言う麻琴の耳たぶを、蒼人はパクッとかじった。
こんなところで何やってんだよ、蒼人は!
「蒼人、くすぐったいよー」と、きゃっきゃとはしゃぐ麻琴は、蒼人の執着を全く気が付いていないらしい。
「じゃあ、そろそろ解散するか」
「そうだな。凛太郎とのこと、報告できてよかったよ」
「ああ、太陽にもようやくって思うと、感慨深いよ」
蒼人にそう言われて、オレは苦笑いをした。
うん、もう33歳になったしな。
苦笑いをしているオレに、蒼人はいつものスンとした顔ではなく、ニヤッと笑って言った。
「アルファの相手は大変だけど、まぁ頑張れよ」
「は? それ、どう言う意味――」
オレが蒼人に問いただそうとした時には、蒼人はもう立ち上がり、麻琴と手を繋いで歩き出していた。
「……アルファの執着、舐めるなってことだよ」
そう言って、珍しく蒼人は声を上げて笑うと「じゃあな」と言って手を振り駅の方に向かって歩いて行った。
「アルファの執着……か」
それは、痛いほど感じている。
凛太郎は、中学生になったばかりの頃から、ベータであり10歳も年上のオレに、ずっと執着してきたと言っていた。
自分の守るべき対象と判断した者への執着は、たとえ相手がベータでも関係がないと言うことか。
初めはそんな凛太郎の態度に戸惑ったオレだったけど、今はその執着が心地良くなっているなんて、まだ凛太郎には言ってやらない。
もう少し、ゆっくりゆっくり関係を築いていきたいんだ。
第二の性に囚われることなく、心と心で繋がりたいと願うから。
オレは、スマホを出して、凛太郎にメッセージを送った。
『帰ったら、うちに来いよ。夕飯、一緒に食べようぜ』
すぐ既読になったのを見て、オレはニヤッと口元を緩ませた。
終
太陽の話、お読みいただきありがとうございました。
この次は、本編の続きを書けたら良いなと思っています。
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