156 / 157
19 お揃いのマグカップ
お世話になった温泉旅館をチェックアウトしたオレたちは、帰りに道の駅へ寄った。麻琴 たちやクリニックのスタッフに、お土産を買って帰ろうと思ったんだ。
1ヶ月ずっと考えていた気持ちを伝えることができて、オレたちはお試しにはなるけど、恋人同士になった。
でも特に変わらない……と思いかけて、オレはそっと自分の頬に触れた。
昨日のことを思い出すと、少し気恥ずかしいこともあるけど、でも心の中がぽっと暖かくなる。
オレと凛太郎 の思い出が、こうやって積み重なっていくんだな……。
自然と緩む口元を感じながら、ゆっくりお土産を見ていると、マグカップの並んだ一角に目が止まった。
太陽 のイラストが描かれたマグカップと、その隣に、ベルのイラストが描かれたマグカップが並んでいた。
「凛太郎、これお土産に買って帰るか」
「マグカップですか?」
「ああ。太陽とベル。オレと凛太郎みたいじゃないか」
「ああ! 本当だ! いいですね、太陽さん。これお土産に買って帰りましょう! 恋人になった記念ですね」
凛太郎は2つのマグカップを手に取り、愛おしそうに目を細めた。
「オレの家に置いておくから……いつでも、使いに来ていいぞ」
「――!」
オレの言葉に、凛太郎はマグカップの箱を手にしたまま、こちらを見て動きを止めた。
ああ、本当にわかりやすいやつだ。
オレは、予想通りの反応をしてくれる凛太郎に、満足してうなずいた。
帰り道は、楽しかった時間を思い返しながら、オレたちは温泉旅行の余韻に浸って帰路についた。
◇
「太陽の話を聞いた時、うちにインターンに来る予定の子かなーって思ったけど、やっぱりそうだったんだねー」
8月上旬の、夏真っ只中。木陰にあるテラス席で、オレと麻琴と蒼人 の3人は、いつもの報告会をしていた。
凛太郎が春岡クリニックの実習を終えた後、麻琴と蒼人の働くシンセンス研究所にインターンに行ったんだ。
「太陽の言うように、凛太郎は優秀だった。あいつは上位アルファだな」
「アルファだから……じゃなくて、あいつは努力してるからな」
「そうか、確かにそうだな。頑張っていた」
オレは、凛太郎が褒められたことで、鼻高々な気持ちになった。
元々蒼人は口数が少ないし、アルファ同士は常にライバル視してるところもあって、そんな蒼人が褒めてくれたんだ。
「すっごくいい子だったよ! アルファなのにエラそうにしなかったし!」
「そうなんだよ。いつも一生懸命で、まっすぐなんだ」
麻琴もニコニコしながら褒めてくれて、オレはますます気分が良くなる。
「太陽、凛太郎くんが褒められて、すごく嬉しそうだね!」
「……あっ」
ニコニコした笑顔のまま、麻琴が言ったセリフに、オレは一瞬ドキッとしてしまった。
まだ2人には、凛太郎とのことを報告してないんだ。そのために今日呼び出したんだから。
「えっとな、今日は話があって呼び出したんだけど……」
「なぁにー?」
いつものように、蒼人の膝の上に座ったままの麻琴は、キラキラと目を輝かせて、オレの言葉を待っている。
蒼人の方をチラリと見ると、もうわかってると言うように、オレにアイコンタクトをしてきた。
さすが蒼人だ。ただの執着アルファじゃない。オレの様子からすでに察してくれているようだ。
「オレと凛太郎、お試しで付き合うことになったんだ」
「付き合うことになったの? ……って、え? お試し?」
麻琴は嬉しそうに身を乗り出した直後、でもえ? って目をキョロキョロさせた。
それはそうだ。普通に付き合い始めた報告じゃなくて『お試し』なんてついているんだから。
「正直、オレはめちゃくちゃ恋愛に疎い。凛太郎へのこの気持ちが、本当に恋なのかわからないんだ。あいつは本当にいいやつで、友達として好きなのかも? って考えちゃうこともあってさ」
「でもなんでお試し? 普通に付き合うでいいじゃん」
麻琴のもっともな疑問に、オレはふっと笑った後、話を続けた。
「好きかわからない状態で、流されるように付き合うのは凛太郎に悪いと思ったんだ。でも、お試しで付き合ったら、本当の気持ちに気づけるかなって。……まぁ、そんなこと言うのも失礼なことなのかもしれないけど、でも、凛太郎は喜んで受け入れてくれた」
「そうか。太陽らしいのかもしれないな」
「そうだねー! 太陽っぽいかも!」
付き合いの長いこの2人がそう言ってくれたのなら、オレの選択は間違っていなかったのかもしれない。
まだ手探り状態だけど、真剣に凛太郎と向き合っていこうと思っているんだ。
「おれ、凛太郎くんに久しぶりに会いたいなぁ!」
「今日は、用事があるって言ってたんだよ。2人に報告するなら、凛太郎も同席してもいいかなって思って声をかけたんだけど」
「そうなの? 残念だー」
オレたちは、2〜3ヶ月に一度くらいのペースで会っている。近況報告を兼ね、食事をしたり夜飲んだりしている。
5年前のピクニックをきっかけに、星司 と月歌 たちも呼んで、みんなで遊びに行ったりもする。
その仲間に、凛太郎も入れてやりたいんだ。オレの友達はみんないいやつだし、とても居心地がいいんだって教えてやりたい。
「声だけでも、話したかったなー。ねぇ、太陽、今電話してみて?」
「え? 今か? ……わかった。ちょっとかけてみるか」
麻琴の無茶振りに答えて、オレは凛太郎に電話をかけてみることにした。
ともだちにシェアしよう!

