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19 お揃いのマグカップ

 お世話になった温泉旅館をチェックアウトしたオレたちは、帰りに道の駅へ寄った。麻琴(まこと)たちやクリニックのスタッフに、お土産を買って帰ろうと思ったんだ。  1ヶ月ずっと考えていた気持ちを伝えることができて、オレたちはお試しにはなるけど、恋人同士になった。  でも特に変わらない……と思いかけて、オレはそっと自分の頬に触れた。  昨日のことを思い出すと、少し気恥ずかしいこともあるけど、でも心の中がぽっと暖かくなる。  オレと凛太郎(りんたろう)の思い出が、こうやって積み重なっていくんだな……。  自然と緩む口元を感じながら、ゆっくりお土産を見ていると、マグカップの並んだ一角に目が止まった。  太陽(たいよう)のイラストが描かれたマグカップと、その隣に、ベルのイラストが描かれたマグカップが並んでいた。 「凛太郎、これお土産に買って帰るか」 「マグカップですか?」 「ああ。太陽とベル。オレと凛太郎みたいじゃないか」 「ああ! 本当だ! いいですね、太陽さん。これお土産に買って帰りましょう! 恋人になった記念ですね」  凛太郎は2つのマグカップを手に取り、愛おしそうに目を細めた。 「オレの家に置いておくから……いつでも、使いに来ていいぞ」 「――!」  オレの言葉に、凛太郎はマグカップの箱を手にしたまま、こちらを見て動きを止めた。  ああ、本当にわかりやすいやつだ。  オレは、予想通りの反応をしてくれる凛太郎に、満足してうなずいた。  帰り道は、楽しかった時間を思い返しながら、オレたちは温泉旅行の余韻に浸って帰路についた。 ◇ 「太陽の話を聞いた時、うちにインターンに来る予定の子かなーって思ったけど、やっぱりそうだったんだねー」  8月上旬の、夏真っ只中。木陰にあるテラス席で、オレと麻琴と蒼人(あおと)の3人は、いつもの報告会をしていた。  凛太郎が春岡クリニックの実習を終えた後、麻琴と蒼人の働くシンセンス研究所にインターンに行ったんだ。 「太陽の言うように、凛太郎は優秀だった。あいつは上位アルファだな」 「アルファだから……じゃなくて、あいつは努力してるからな」 「そうか、確かにそうだな。頑張っていた」  オレは、凛太郎が褒められたことで、鼻高々な気持ちになった。  元々蒼人は口数が少ないし、アルファ同士は常にライバル視してるところもあって、そんな蒼人が褒めてくれたんだ。 「すっごくいい子だったよ! アルファなのにエラそうにしなかったし!」 「そうなんだよ。いつも一生懸命で、まっすぐなんだ」  麻琴もニコニコしながら褒めてくれて、オレはますます気分が良くなる。 「太陽、凛太郎くんが褒められて、すごく嬉しそうだね!」 「……あっ」  ニコニコした笑顔のまま、麻琴が言ったセリフに、オレは一瞬ドキッとしてしまった。  まだ2人には、凛太郎とのことを報告してないんだ。そのために今日呼び出したんだから。 「えっとな、今日は話があって呼び出したんだけど……」 「なぁにー?」  いつものように、蒼人の膝の上に座ったままの麻琴は、キラキラと目を輝かせて、オレの言葉を待っている。  蒼人の方をチラリと見ると、もうわかってると言うように、オレにアイコンタクトをしてきた。  さすが蒼人だ。ただの執着アルファじゃない。オレの様子からすでに察してくれているようだ。 「オレと凛太郎、お試しで付き合うことになったんだ」 「付き合うことになったの? ……って、え? お試し?」  麻琴は嬉しそうに身を乗り出した直後、でもえ? って目をキョロキョロさせた。  それはそうだ。普通に付き合い始めた報告じゃなくて『お試し』なんてついているんだから。 「正直、オレはめちゃくちゃ恋愛に疎い。凛太郎へのこの気持ちが、本当に恋なのかわからないんだ。あいつは本当にいいやつで、友達として好きなのかも? って考えちゃうこともあってさ」 「でもなんでお試し? 普通に付き合うでいいじゃん」  麻琴のもっともな疑問に、オレはふっと笑った後、話を続けた。 「好きかわからない状態で、流されるように付き合うのは凛太郎に悪いと思ったんだ。でも、お試しで付き合ったら、本当の気持ちに気づけるかなって。……まぁ、そんなこと言うのも失礼なことなのかもしれないけど、でも、凛太郎は喜んで受け入れてくれた」 「そうか。太陽らしいのかもしれないな」 「そうだねー! 太陽っぽいかも!」  付き合いの長いこの2人がそう言ってくれたのなら、オレの選択は間違っていなかったのかもしれない。  まだ手探り状態だけど、真剣に凛太郎と向き合っていこうと思っているんだ。 「おれ、凛太郎くんに久しぶりに会いたいなぁ!」 「今日は、用事があるって言ってたんだよ。2人に報告するなら、凛太郎も同席してもいいかなって思って声をかけたんだけど」 「そうなの? 残念だー」  オレたちは、2〜3ヶ月に一度くらいのペースで会っている。近況報告を兼ね、食事をしたり夜飲んだりしている。  5年前のピクニックをきっかけに、星司(せいじ)月歌(るか)たちも呼んで、みんなで遊びに行ったりもする。  その仲間に、凛太郎も入れてやりたいんだ。オレの友達はみんないいやつだし、とても居心地がいいんだって教えてやりたい。 「声だけでも、話したかったなー。ねぇ、太陽、今電話してみて?」 「え? 今か? ……わかった。ちょっとかけてみるか」  麻琴の無茶振りに答えて、オレは凛太郎に電話をかけてみることにした。

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