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第24話 会いたい 

 それからさらに三日後、自宅療養中に迎えた土曜日。  翼は両親に告げずにレオニーランドに向かった。  退院して間がないのに、外出するなんて言ったら反対されるに決まっている。出かけたと気づいたらまた心配をかけるだろう。けれどどうしても三澤に会いたかった。  謹慎を終えたはずの三澤と連絡が取れていない。通話どころかスマートフォンメッセージもいまだ既読にならず、天宮に問うと『自分のせいで大塚が入院したと思って、大塚が無事に登校するまで自分に罰を課してる感じがする。スマホも持ってきてないし、俺らともほぼ話さない』と返ってきた。  ただ天宮からの追加情報では、翼が天宮に送ったメッセージがきっかけで、謹慎明けの三澤に再度聞き取りが行われたそうだ。  厳重注意に変わりはないものの、アルバイトの継続許可が降りて、今日からショーに復帰するとのことだった。  三澤君に会いたい。顔が見たい。三澤君が動かないなら、僕が動く!   三澤に会えない日々には色がなかった。左手首のラバーバンドの赤色もずいぶんと色褪せて見えて、三澤の髪の赤い色が恋しかった。  それでも翼は赤いラバーバンドを握って、早く三澤に会えますようにと祈った。  けれどそうすると胸がとても痛くなって。  今まではラバーバンドに祈れば心が軽くなっていたのに、三澤を思うとますます胸が重くて苦しくなって。  翼はもう高校生なのに、涙をこぼして泣きたくなって。  会いたい、会いたい、会いたい……!  込み上げて来るこの思いの意味を考えた。そのときには決まって「好きだ」と言ってくれた三澤の顔が頭に浮かんだ。  好き。  翼も三澤が好きだ。  同じ言葉なのに、ふたりの言葉の意味は違うのだろうか?  彼の言う「惚れてる好き」は恋愛の意味なのだろう。  でも翼は男だ。恋愛の好きは異性に向けるものじゃないのか?  だから翼の好きは、単純に親友に対する好きで。  ……単純? 単純なんかじゃない。翼が三澤に感じる好きは、もっともっと複雑で、深くて大きい。  彼の人柄を、彼の行動を、翼に力を与えてくれる彼の笑顔を、翼は好きだ。  もしそれらがなくなったとしたら、翼にとっての世界は太陽を失くした暗がりになってしまう。  想像しただけで胸が痛んだ。けれど一緒にいるところを想像しても胸が切なくてきしんで、ドックドックと激しいリズムを刻んだ。  この痛みは。  この切なさは。  この律動は、きっと。  三澤に会って確かめる。  キスが嫌じゃなかった。いいや、心地よかった意味も。  思いを告げられたときはパニックになったが、三澤の言葉で心臓が止まりそうに感じた意味も、全部一緒に確かめる。  これほど動きたい気持ちになるのは、相手が三澤だからだ。  翼は開園と同時にレオニーランドに入り、一番にレオニーショーの整理券を求めてショー施設に向かった。  だが三澤が謹慎だったからだろう。レオニーショーは一週間ぶりということもあり、また翼が走れず先を越されたこともあり、整理券配布窓口に着いたときにはすでに長蛇の列ができていた。  不安と苛立ちに胸を痛めながら並ぶ。いつもは三澤が整理券を準備してくれていたから、この時間がとてつもなく長く感じた。  それでもラバーバンドに祈って順番を待つと、なんとか整理券を受け取れて、翼のふたり後で配布終了になったときにはラバーバンドに感謝せずにいられなかった。  ──あと少しで会える。  開場まではまだ時間があるが、翼は少しでも早く三澤に見つけてほしいという思いから、そのまま施設の入り口に並んでいた。翼は一番後ろの左端に座ることが多いから、そこに座れば三澤も気づいてくれやすいかもしれない。  今日も「ショーに行くよ」とメッセージを送っても既読にならなかったから、謹慎処分後からスマートフォンを持ち歩いていない可能性が高い。  こうして三澤に見つけてもらうしか、ショー後に話せる|術《すべ》がないのだ。  ただ十月中旬に差し掛かろうというのに、快晴の秋は気温が高く、額や首に次第に汗が滲んだ。思いつめるように来たから飲み物も忘れてきている。  でもあと三十分だから……スマートフォンの時刻表示を見る。それからアルバムアプリを開いて、三澤と撮った写真を見た。  六月に出会ってからたった四か月。写真はまだ数枚しかないが、気を紛らわせるには充分過ぎた。充分過ぎて、見ているとさまざまな気持ちが溢れ出しそうになる。鼻の奥がじんと熱くなり、視界が少し霞んだ。  早く会いたい。あと二十分……そう繰り返してあと十分、あと五分となり、やっと開場時間となった。  一番に入った翼は一番後ろの左端を確保できて、暑い中を一時間待って疲労した体を休める。  けれど外気温が高いせいか施設内は冷房が効いていて、寒さのほうが弱い翼の手足はすぐに冷たくなった。温度の急激な変化は翼の体に負担だ。  胸が少しドキドキしている。だがこれはもうすぐ三澤に会えるからかもしれない。  ここ最近の翼は、三澤を思えばドキドキしていたから。  ふぅぅ、とゆっくり深呼吸をして胸を撫でる。  うん、大丈夫だ。今日はちゃんと頓服薬を持ってきたから、ひどくなれば飲めばいい。  このときの翼は浮き立っていたのだろう。飲み物を持っていないことを忘れていた。

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