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第3話

 19時頃になって、父親と駅で一緒になったと京介と父親の雄介が帰ってきた。  ダイニングでは椅子が足らないので、リビングに料理を置いて晩御飯の準備ができている 「おかえり。ケーキは?」 「あっ!」  迎えでたてつやがまず先に京介にきくと、まあそうだと思ってはいたが忘れたらしい。 「え?ケーキっててつや(おまえ)のなん?」 「いや、京介(お前)とおとうさんの」 「なんだじゃあ別にいいじゃん。俺ら別に食いたくねえし」  お前はよくてもだな…と言おうとするが、おとうさんが 「てつやくん。お気持ちはいただいたよ」  といつものホニャッとした笑みをしてくれたのでまあよしとする。 「お、壮平くん久しぶり」  京介と父親が一気に帰ってきて、壮平の緊張がピーク。  まあ、彼女の兄と父親というものはこんなカジュアルに会っていいものか…と少し考える。 「お邪魔してます…」  緊張気味の壮平に笑ってテーブルに目を移した京介は 「なんだこの唐揚げ」  その量の多さに笑って、シャツの袖を捲り上げた。 「さあさあ早く手を洗ってきてちょうだい、お父さんは着替えるなら早くねー。食べてるから」  眞知子さんが京介と父親を洗面所へ押しやって、ご飯を盛ったりお味噌汁を盛ったりしてくれて、それを詩織がリビングまで運び、そこでてつやが各々の前にそれを配分する。 「てっちゃん嫁じゃん」 「うるせーな 嫁って言うな!他にやる人いねーからだろ」  リビングの端で、「嫁」と言う言葉に感動する京介を、急いで部屋着に着替えた父親が薄く笑って背中をポンポンすると、我に返ったように顔の筋肉を戻した。    息子カップルと娘カップルと一緒の食事は、実は初めてだった浅沼夫妻はどこか嬉しそうで、父親はビールが進んでしまい食後にはソファーで眠り込んでしまった。  てつやは車で来ていたので飲まずにいたから、京介が父親に付き添って壮平と共に飲んではいたのだが、壮平もほろ酔い。 「弱いなみんな」 「お兄たちがザルすぎるんだよ。酔い潰れることあんの?」  詩織が呆れてそういうと、壮平がーえ、そうなの?ーと聞き返してくる。 「この人ら…他にいる仲間の人ねよく話すでしょ?まっさんと銀ちゃん。この4人底なしなのよね、お酒。潰れたところ見たことない」 「へえ〜」 「壮平くんは、でもいける口みたいだな」  詩織にコーラを注いで、自分は烏龍茶を飲んでいたてつやが壮平にもお酌をする。 「友達の中では強い方ですけど、今の話聞いてるととても太刀打ちできそうもないっす」  ほろ酔いの赤い顔で、笑うとやっぱりまだ幼そう。 「今、大学生…だよな。同じ年?」 「2個上だよ。サークルの先輩だったの」 「詩織は文治と同じ年だから、え、じゃあ就職か。決まってるのか?」  京介も入ってきて、そう問う。先々どうなるかわからないが、妹の伴侶になるかもしれないやつの仕事状況は気になるところ。 「ええ、まあお陰様で、内定はいただいてます」 「ならよかったなー。まあ今の時点で決まってないのはしんどいもんな」  そんな話に花が咲いている間に、眞知子母さんはさかさかとテーブルの上を片付け、全部食洗機に放り込むと、タッパーに残りの唐揚げを詰め、お茶の準備をして返ってきていた。  主婦力たけーな…とてつやは、気づいたら綺麗なテーブルを見て、密かに感動していた。 「ところで…」  珍しく緑茶を入れてくれた眞知子さんは、それを各々に配ったあと、ふわふわな感じは残しつつ、頑張ってキリリっとした顔をして正座した。 「ん?」  全員がその姿を見て注目 「京介」 「うん」 「あなたネクタイ戴いたんですって?誕生日プレゼントに」  急に言われ一瞬なんのことだ?と思ったが、先日田辺さんからもらったネクタイの話かなと理解し、これはてつやにも話してあるからいいか…と 「ああ、うん貰った。どうしようかなとは思ってるけど」 「どうしようかなって言うのはなんなの?」  いつもふわふわしている母が、今日はずいぶん切り込んでくる。 「え?なに?どうした、母さん。この話なんで知ってんの?てつやか?」  てつやはてつやで、自分のその感情の意味が未だちょっとわかっていないままなので、一応頷きはしたがちょっと目を逸らし気味になる 「そこはどうでもいいのよ。どうしようかってなんなの?いただいた以上返せないでしょう。くれたご本人にも申し訳ないし…ああ、もうどうしてこうわかってあげれないのかしらね」  京介にしてみたら、全く意味が分からず、助けのてつやもそっぽを向いているのでお手上げだ。  しかも 「えー?なあにお兄、会社の女の人から誕プレ貰ってきたの?サイテー」  詩織まで参戦してきて、詩織の言葉で京介はそこで理解をした。 「え…だめだった?だって断るのも失礼かなと思ってさ…」 「壮平が他の女から誕プレなんか貰ってきたら、あたしそのプレゼントギッタンギッタンにして、壮平引きずって、その女ビンタしにいくけどね」  カップのアイスをスプーンで掬いながら、詩織はジロッと京介を睨む。  その脇で壮平が、引き攣った笑みでやはりアイスを掬っていた。 ーうわ、やっぱそこまでのことか…う〜んー てつやも内心怖っとも思ったが男女の関係で起こった時はこんなことになるんだ…と、身に沁みる。 「ええ〜?そこまでかな…」 「そこまでよ!他にあなたにプレゼントくれた人いるの?いないんじゃない?」  眞知子さんも娘の援護を受けて、息子の糾弾に大乗り気。 「その女性は、一度あなたに思いをぶつけてきた人でしょう?その人がどうしてそんなことするの?あなたがまた、思わせぶりなことしてたんじゃないの?」  要らぬ疑いまでかかってきた…。  指輪を買うことになったきっかけの話は、こう言ったことが多いから…という話のついでに話したことだったが、眞知子さんよく覚えてる…。(「チーフの憂鬱」の回) 「お兄ってそう言うところあるよね。誰にでも優しくしちゃってさ。区別ってしないんだよほんっとにさ。そういう所が隙っていうかさー。変に期待持たせるっていうかさー」 「いやいやいやいやぜってーないし!あれは、そのみんなが知ってる話のことの謝罪でくれたっていうか、ちょっと自分も悪かったからってお詫びですって言う感じだったんだよ………?」 「だからって誕生日にってこともないじゃない?あれはもうだいぶ前のお話でしょう?」 「お兄ちゃんたちは、2人はラブラブでわかりあってるだろうけど、側から見た女子には、私が振り向かせてやるって思われる対象でもあるって覚えときなよ」   女性2人にぎゅうぎゅうに絞られる京介を見ていたてつやは、自分の感情が「嫉妬」だったんだとようやく気がついた。  そして詩織の言葉も強烈だった。指輪じゃまだ足らないのか…。考え込んでしまう。てつやとてその『私が振り向かせて見せるぅ』の対象者なのに。  アイスを食べ終わり、お茶を口にしていた壮平は、母子3人のやり取りを聞いてなんだかほんわかした気持ちになっていた。  最初に彼女の兄の恋人関係を聞いた時には、やはり驚いた。  元々詩織からは、自慢の兄だとか女性にモテるとか聞いていたのに、そこか!?と思ってしまったのも否めなかったが、今日初めててつやに会って、ーああ、この人なら、お兄さんもなぁ…ーと思ってしまっていた。  容姿はいずれにしろ、なんだか自分のことよりも人のことを優先するタイプに見えるし、そこがなんだかもどかしくもあり、尊敬すべきところでもありな気もするし、なんせあまりでしゃばらない。今現在でも、てつやは一言も介入していない。 ーきっとお兄さんには可愛くて仕方ない存在なんだろうな…ーなんて思いつつも、全力で息子と同性である恋人と名乗る男性を擁護しまくる母もすごいし妹もかなりすごいことだ、と感心もしている。  聞いた時に驚きはしたが、差別的な感情は自分にも無かったし、このやり取りは正当に裁かれるべきだと自分も思いつつ、段々楽しくなって来ていた。 「わかった!わかったから!じゃあ俺どうしたらいいんよ」  ギャースギャース言われて、京介はもう降参モード。  すがりを求めて壮平に目をやるが 「全面お兄さんが悪いので、僕には何も…」  アウチッ!ーああ面白いー壮平くんは意外と意地悪だった。 「きちんとお詫びして何かのお返しをしなさいね。貰ったものは…申し訳無いけどきちんとお片付けもすること」  眞知子さんが、一転優しく諭してくる。  ここにいる全員が、てつやが妬きもち妬いて悩んでいるとてつやの味方になってるが、当の本人はやっとその「嫉妬」を自覚したばかり。  それを自覚したところでどうしたものかとも悩んでいる始末だ。でも、取り敢えず 「んっとぉ…」  何か言わなければと思ったらしい。 「今回は、俺がモヤモヤしなければよかったんだろうけど…なんか俺にもなんでなのかわからなかったから、こんな騒動になってすみません…」  一応謝ってみる…が 「でも、今の話聞いてて、俺「嫉妬」してたんだって気づいて、なんかやっと自分の感情に名前がついて安心した」  とも言って、へへっと笑った。  それが大惚気だとは気づいていないのは、さすがてつやという所か…

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