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第2話

「本当に量多いわねえ…帰り京介も呼んで、ここで晩御飯食べて行ったらどお?」  確かに鶏の量は半端なく多いのだが、眞知子さんは京介に一言言ってやりたくて、袋から取り出した肉に片栗粉をまぶしながら呼ぶことを決めた。 「あー、いっすね。じゃあ後で連絡しときます。残業しないように言わないと」  揚げ方もじっとそばで見つめて、自分で時間を計り携帯にメモってゆく。 「漬け込む時にお酒とか入れたら、漬け込み時間もう少し長い方がいいんだけど、今日は生醤油だったから30分って短めだったのよ。これは時短ね」  菜箸で唐揚げを転がして、教えてくれた。 「それと、揚げてる時間は大体8分くらいだけど、お肉にもよるからこう…ほら浮いてくるじゃない?そうしたら大体いい感じなのよ」  と揚げ時間をきっちり測っているてつやを楽にしてくれる。  唐揚げもだいぶ揚がってきた頃、詩織が帰ってきた。 「ただいま〜」 「お邪魔します」  誰かと一緒のようである。  眞知子さんは菜箸をてつやに預け、パタパタと玄関へ向かった。 「あら、高野君いらっしゃい」 「突然来てしまってすみません、ちょっと詩織さんにお借りしたいものあって。すぐにお暇(いとま)しますんで」  と、詩織の彼氏「高野壮平」は、真っ黒な長めの髪を揺らしてお辞儀をする。 「あら、いいのよ。ちょうどよかったわ。今日ね、唐揚げをい〜〜っぱい作ったのよ。晩御飯食べて行ってちょうだい〜」  詩織はーともかくあげてあげてーと家に入り、リビングに入って行ったが、間続きのキッチンに立っているてつやを見つけ 「てっちゃん、なにしてんの?」  と言い様バカ笑いを始めた。 「んだよ詩織!笑うことねーだろ」 「だって、菜箸持って困ってない?焦げるよ」  そうなのだ、てつやは箸を任されたものの、上げ時イマイチがわからずにずっとこれは浮いたのか?どうなんだろう…と唐揚げを突いていたのだ。 「あらあらごめんね、もういいわよ上げてちょうだい、空いたバットに上げておいて〜」  眞知子さんもあわててキッチンへ戻り、空のバットを持って行ってあげる  高野はオズオズとリビングに入り、 「壮平もここ座って」  と言う詩織の言葉に、隣へ腰を下ろした。 「ね、あの人?お兄さんの…」  眞知子と笑いながら肉を上げているてつやを目で追う。 「そうそう、てつやくん。てっちゃんでいいよ」  詩織から随分と話は聞いているらしく、理解はしているがなんせ初めて会うので壮平もちょっと緊張してしまう。 「あ、初めまして、加瀬てつやと言います。ちょっと今すいません、唐揚げ揚げちゃうんで挨拶軽めで」 「いえいえ、ごゆっくり」  壮平も遠慮がちにそう言って、居心地が悪そうにソファに浅く座っている。 「あ、詩織。てつや君がケーキ持ってきてくれたから、手を洗って高野君にお出しして」 「マジで〜?てっちゃん気が効くじゃん。ありがとうねー。じゃあ壮平手洗ってこよ」  洗面所へ向かい、手を洗ってくると詩織はケーキの箱とお皿とフォークを持って2人でリビングへ腰掛ける。  残りは、予備として買ったものふくめちょうど2個の筈だ。 「お父さんの無いですね。後で俺買ってきます」  てつやがこそっとそう言うと、 「いいのいいの、最初からなかったものとしましょう」  ニコッと笑って、最後の肉を油に落とす。  いやぁ〜それはあんまりでは…と思ったので、実家に顔出せと京介にLINEする時にケーキ買ってこいと言っておこうと決めた。 「本当に随分作ったねえ」  キッチンで一個つまみ食いをしている詩織が、3つのお皿に盛られた唐揚げをー壮観だわーと笑っている。 「多い方がみんなで食べられるでしょ。余ったら、壮平くんも持って帰るといいわ」  一人暮らしの壮平には願ってもない話。 「あいあほうごらいまふ」  詩織に唐揚げを口に丸々一個入れられたのをようやく咀嚼して、モゴモゴしてしまう。 「お前、熱いのに可哀想に」  てつやが水をグラスに入れて壮平へ渡してやると、 「てっちゃん過保護ー。まさかお兄(にい)にまでそんな過保護??」 「いやー?過保護にされてんのは俺ー」  臆面もなく惚気られて、思わず詩織は舌を鳴らしてしまう。 「あたしだって、壮平甘やかしてるよ!」  壮平はきちんと味わった後、口の中の熱を冷ますように一口だけ水を口にいれ、 「それをそこで言うのは逆じゃないの?」  と飲み終わったあと言ってみる。 「え?そう?」 「あなたが甘やかされていないと、お母さんも安心できないわよ」  眞知子さんも笑って、きゅうりを刻んでいた。 「あ、眞知子さん。他にやることあれば」 「もう平気よ。てつやくんは唐揚げの揚げ方の勉強にきたんでしょ?他はいいの。リビングで詩織と遊んであげてて」  遊んであげてって!詩織が母に憤り 「すいません。じゃあ詩織、お絵描きでもしようか?」  ニヤニヤ笑ってリビングに向かうてつやの背中に、軽くだが拳をぶつけて 「幼稚園児か!」  とこんどはてつやの悪態をついて、詩織は我先にリビングへ入って行った。

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