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ボクの景色、キミの景色
久しぶりの彼はすごく、なんというか、すごくカッコ良く思えた。
元からカッコよかったが、歳を重ねてますますカッコよくなった気がする。
「お疲れ様。すごく良かったよ」
顎のヒゲをなぞりながら、どこか評論家めいた口調で高野久秀さんは感想を述べる。かと思えばニカッと歯を見せて笑って、オレの肩をどついてきた。
「おいおい、ラスティアス・ライジェル~。いつの間にそんなに男らしくなったんだよ」
「え、そ、そう?」
「そうだよ。昔はあんなに初々しくて可愛らしかったのになぁー。お兄ちゃんは悲しいよ」
「普通喜ぶとこやろ」
泣きマネをしてからかってくるのも相変わらず。自らを「お兄ちゃん」と称するのも久しぶりに聞いた気がする。
そう考えて、彼と長らく一緒に仕事をしていないことに気が付いて切なくなった。
「なんやの、ほんと」
「おー、生意気なのは変わらないか。はは、代わったのはムチムチだけかな」
オレの二の腕を揉んできて、久秀さんはクスクス笑う。
「あほ、これは筋肉や」
確かに食べてばかりだがその分、身体も鍛えているつもりだ。ダンスをしていたから他の人に比べると、筋肉の付き方も違う。
そんなこと分かっているクセに、久秀さんは楽しそうにオレの二の腕を揉み続ける。
「そういえば、知ってる? 二の腕ってオッパイと同じ感触なんだって」
「セクハラやで」
ついでとばかりに胸を揉まれそうになったので、手を振り払う。
「そんなことより写真撮らへん?」
「お、ブログ用? いいね、俺にも後でデータちょうだい」
話を逸らすと久秀さんは乗り気で身体を寄せてくる。
この距離の近さも久しぶりだ。最後に一緒にこうして写真を撮ったのはいつだったか。
なんとなく気恥しい。
「ラスティさ、あんまり無理はするんじゃないよ」
写真を撮り終わると、久秀さんはそう囁いてくる。
「ストイックなのはいいことだけど、身体壊したら意味無いからな」
ポンポンとオレの背中を叩いて、久秀さんはキザっぽく片目を閉じた。
「じゃあ、俺行くわ」
「え、あ……あの、今日はありがとうございました」
「こっちこそありがとう。また一緒に飯行こうよ」
「はい、是非」
ぺこぺこと頭を下げると久秀さんは声をたてて笑う。
「じゃ、お疲れ様。千秋楽まで頑張って」
「はい、ありがとうございます。お気をつけて」
久秀さんは他の共演者に挨拶をし、オレのマネージャーと一言二言会話を交わして、帰ってしまった。
さっきまで傍にいたのに、急に恋しくなってくる。
もっといろんな話をして、褒めてもらいたかったのに。
みんなで飲みに行ったその帰り。オレは久秀さんに写真のデータを送信する。
今日のお礼と食事の誘い。何かしら久秀さんからの返事がほしくて、そんな内容も合わせて送信した。
するとすぐに返事が返ってきて、オレと同じ気持ちだったのが嬉しかった。
【さっきまでラスティが隣にいたのが嘘みたいだ】
【恋しくて仕方ないよ】
またいつか一緒に同じ場所に立ちたい。
同じ景色を見たい。
オレが見ている景色と久秀さんが見ている景色。それを共有出来る時がくればいいなと願った。
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