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第7話
「そもそも付き合ってねーよ。ただ噂になってただけだろ」
「そうだったんだ。……ごめん、立ち入った事訊いて」
「俺とお前の間に〝立ち入ったこと〟なんて無いわ。浅川先輩の家には……二回遊びに行ったことがある。そんで付き合ってほしいって言われたけど、断った」
「断ったの? 先輩美人なのに」
「美人か? やたらうちに遊びに来てっていうから行ったけどな。まぁ、単に俺が好きになれなかった。それだけ」
「……うん」
それ以上、僕は質問を続けなかった。風吹はさっきより力を入れて、僕をギュッと抱きしめる。クシュン、と僕はくしゃみをした。
「悪い。さすがに裸じゃ寒いよな」
風吹は起き上がって、床に落とした僕の下着とスエットを取ってくれた。僕は肌着を着て、パンツを履く。僕の様子を見ていた風吹は、また少し呼吸が早くなっていた。
「──風吹。やっぱり僕もするよ」
ちゃんとスエットを着て、なぜかベッドの上で正座して僕は言った。
「いい」
風吹は首を振る。銀色の髪が闇の中で柔らかく光った。また僕の背中側から手を回し、さっきと同じく僕の全身をくるむように抱きしめて風吹は横になった。
「俺さ……ほんとにこうしてるだけでいいんだ。お前にしてやるのも、全然嫌じゃない。桜がちゃんとイってくれると、すげぇ安心する。お前、ちっちゃい頃からマジで身体弱くて、何回も入院してるだろ?
熱出したり、寝込んだりしてるの見てると、お前がいなくなっちゃうんじゃないかって思えて……怖い。最近はあんま熱出さなくなったし、ちゃんと射精も出来る。それは元気な証拠じゃん? だから俺、それだけで充分なんだ……」
風吹はおでこを僕の後頭部へ擦り付けた。僕は風吹の言葉を聞いて、涙が出てしまった。風吹は本当に僕の事を心配してくれてたんだ。
いなくなってしまうのが怖い……。怖いんだ。きっと菫みたいに急に消えてしまうのが──。
「……うん。分かった」
僕は風吹の腕に両手を掛けた。そのまま、僕たちは眠りについた。
僕は半分に切った玉ねぎを包丁でスライスしながら、昔を思い出していた。家についた頃、風吹から「カレー食いたい」とだけ連絡が来た。材料は家にあるもので作る事にした。豚肉があったのでポークカレー。ジャガイモと人参に加え、茄子と少量のトマトも入れる事にした。
僕は料理が好きだ。免疫系が弱くあまり人混みの中にいけないから、家の中で出来ることが趣味になったようなものだった。お母さんの手伝いをするために家事全般もこなせるし、裁縫も得意な方だ。
自分の夕飯と風吹のためにカレーを作りながら、僕と風吹の関係についてまた考え始めた。
風吹はあの後もずっと、〝オナニーの手伝い〟を続けてくれた。一度ローションを使った後は毎回お尻の穴を攻められた。今では多分、風吹の指は僕のお尻に余裕で三本は入るはずだ。
それでもこの五年間、年がら年中ソレにふけっていた訳じゃない。僕はやっぱり体調を崩してしまうこともあったし、部活の大会や高校受験、その後大学受験もあった。
特に大学受験の時は、それこそ〝する〟時間がなかった。風吹は成績が良く、今の学部も推薦で合格することが出来た。
問題は僕だった。高校受験も風吹と同じところに行きたくて必死で勉強した。風吹は僕と同じ学校へ行くために、高校の偏差値ランクを低いところへ変えようとしてくれた。
でも僕は断固拒否した。僕の成績不振の為に、風吹の人生を変えるようなことはしたくない。どうにか高校は受かることが出来たけど、その後授業についていくのは大変だった。
風吹はいつも理系特進のA組にいて、僕はずっとB組だった。理系の特進クラスは二つしかなく、人数に制限があるため、成績が落ちると普通科と同等のC組以下に落とされてしまう。
大学は学費の面でも国立以外選択できなかった。僕は推薦を取ることが出来ず、二次試験が終わって結果が出るまで、〝ふたりオナニー〟の事を考える余裕もなかった。
無事合格出来て、安堵 のあまり僕は寝込んでしまった。入学式までには持ち直したものの、新生活に慣れるのに必死だった。ゴールデンウイークにはまた高熱を出して、六月初めの今、やっと体調が整った。
風吹は僕の様子を見て、今日なら久しぶりにアレが出来そうだと判断したのだろう。僕はカレーを作った後もソワソワしていた。
母は金曜の今日、仕事が終わったら真っすぐおばあちゃんの家に行くと言っていた。おじいちゃんは二年前に亡くなり、おばあちゃんが独りで心配だからと、母は時々泊まりに行ってあげていた。
風吹と一緒に過ごせる夜は嬉しいけど、僕は前々から考えている事があった。それは、大学生になった僕が、今までのように風吹に頼っていていいのか、ということだ。
風吹と僕はかなりHな関係だと思う。ただ僕たちが付き合っているか? というとそんな関係ではないと言える。風吹は僕を気持ちよくしてくれるだけだし、好きだと言われたこともない。それに風吹は、今まで一度も自分のモノを僕に触らせてくれなかった。
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