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 壁をスクリーン代わりにするよう映し出された、見覚えしかないエッチなイラストたち。  それは先日、深夜テンションで買いまくった俺好みの電子書籍の表紙たちだ。全て、あられもない姿の美少年から美青年オンリー。性癖の偏りが凄まじい。  壁の前で正座をしながら、俺はダラダラと汗をかく。 「ごめんなさい、すみません。謝りますから、どうかそれらのお表紙様たちを隠していただけないでしょうか。万が一あの子に見つかったら、誤解しか生まれないので」 [──『誤解』? 事実でしょう?] 「──いやだから違うんだってぇっ!」  おかしい。俺はゼロ太郎の設定を【鬼畜で非道な性格】にしていないはずなのに、冷たすぎる。  だが、誤解は解いておこう。俺はバッと勢いよく顔を上げて、壁を見る。 「確かに俺は、恋愛対象が男だ! しかも華奢で細身で弟属性の美少年が好みだ! あの子はまさに、俺の好みドンピシャと言っても間違いないだろう!」 [──はい、言質] 「──いや最後まで聞いてッ?」  ペシペシと膝を叩き、俺は弁明を続けた。 「だけど、あの子を連れ帰ったのは本当にやましい下心所以じゃないんだって! こんな寒い夜にあんな薄着で倒れてたら心配だろ? それに、あれだけ可愛い子なんだから変な人間にホテルとか危ないところに連れていかれる可能性だってあるわけだし!」 [はぁ、そうですか] 「なんだその『それお前のことだろ』みたいな態度は!」  さすが、俺の検索履歴を全て管理している人工知能だ。俺の性癖に対する理解が深いゆえに、信頼が浅い。 「とにかく! 俺は本当に善意であの子を保護しただけ! あの子の目が覚めたらちゃんと話をするし、場合によってはあの子の状況に適した機関に連れて行くつもりだって!」  たぶん、ゼロ太郎に顔があったら『ジトーッ』と信用ゼロな眼差しを向けられているに違いない。そんな姿が用意に想像できてしまうということは、そもそも俺は俺を信用していないのだろう。とほほっ。 「だから、俺は下心を抜きにあの子を連れて帰ってきたんだ。それは、確かにあの子の見た目はすごく好みだけどさ? だけど、仮にあの子が俺のタイプと全く真逆の……例えば、坊主頭で筋肉ムキムキのメチャメチャにいかついガタイだったとしても。それでも俺は、あの子を連れて帰ってきたと思う」  だが、見えないゼロ太郎の顔を考えても仕方がないだろう。俺は真剣に、事の経緯に対する思いをぶつけた。  まぁ、ゼロ太郎の言い分も分かる。俺の電子書籍購入履歴を見れば、誰だって通報したがるだろう。それくらい、あの子のビジュアルは俺の性癖ドストライクなのだから。  一先ず、ゼロ太郎の猜疑心はそのままに。疑いに対する弁明よりも俺は、ずっと抱え続けていた重要な相談を、流れでゼロ太郎に打ち明けた。 「と言うか、ゼロ太郎。俺はこの子を拾ってから、ずっと考えていることがある。聴いてくれるか?」 [なんですか、改まって。そんなに重要な話なのですか?] 「うん。ものすごく重要だよ」  ゼロ太郎から、返事がなくなる。おそらく、清聴スタイルに入ったのだろう。俺は姿勢を正し、ジッと壁を見つめた。  小さく、息を吸う。それから、意を決したように──。 「──あの子の性格なんだけど、ゼロ太郎は【活発で人懐っこくてお茶目なキュートタイプ】と【ツンツンしていて口が悪いちょっぴり生意気なパッションタイプ】のどっちだと思う?」 [──私に分かるのは【主様は今すぐ自首すべきだ】ということだけですね]  俺にとって超絶重要な案件を打ち明けたというのに、ゼロ太郎の態度はあまりにもあまりだった。

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