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月君と解散し、俺はマンションに向かった。
残業三昧の職場に対して特になにも思っていなかったが、今日だけは言いたい。『ありがとう』と。
おかげさまで、通行人はゼロ。アラサーの男が悪魔の美少年をお持ち帰りしているという、パッと見ると異常事態なこの状況を、俺は誰に見られることもなく完遂できたのだから。
「ただいま~」
玄関扉をくぐり、俺は静かな部屋に帰宅の挨拶をする。
部屋の中には、誰もいない。当然だ、俺は一人暮らしなのだから。ここで人影があればホラーである。
……だが。一人暮らしの部屋に、突如──。
[おかえりなさいませ、主様]
──ポンと、低い声が響いた。
しかし、俺は驚かない。なぜならこの部屋は【そういう部屋】なのだから。
今しがた響いた機械的なその声は、正しく【この部屋から】鳴っている。
この音──と言うか【人工知能】は、この部屋に搭載されているシステムだ。
確か、なんだったかな。人間により良い生活をさせるために作られた、とか。そういう感じの、大層ご立派な役目があったはずだ。
俺は色々あってこの部屋に住むよう半ば強制されただけで、詳細を知るよりも先に得てしまったルームメイトなのだが……。しかし、最終的に『一緒に住む』と決めたのは俺だ。
俺はこの人工知能を【便利な機能】ではなく、ほとんど【姿がない家族】として扱っている。
……おっと、話が脱線しちゃったね。戻そう、戻そう。
「見てよ、ゼロ太郎。悪魔を拾っちゃった」
男性にしても低い声に設定された人工知能──名をゼロ太郎は、俺の声に人間らしい反応を返す。
[どうやら、そのようですね。主様が帰宅したと同時にそちらの少年にスキャンをかけましたが、生体反応が悪魔と一致いたしました。確実に悪魔です]
「ゼロ太郎がそう言うなら、間違いないね。さすがに悪魔の行き倒れは現実で初めて見たなぁ~」
相変わらず脱力したままの悪魔君をそっと、ソファに下ろす。
俺はコキコキと首周りを鳴らしながら、ソファに寝そべらせた悪魔君を見つめた。
「メチャクチャ美少年じゃないか、この子?」
[えぇ、とても。……とても、主様好みの容姿ですね]
「あれっ、ゼロ太郎? なんで今、いつも以上に声を低くしたのかな?」
[主様が罪を犯した場合、主様の所有物である私はデータの一切をデリートされてしまうのだろうな、と]
「想定が極限すぎる! もっと段階を踏んでよっ!」
[段階を踏めば、想定の中で法に触れても良いのですか?]
なぜ呆れる、なぜ。そっちから言い出したんだろうがい。
ネクタイを緩めつつ、俺は目についた壁に向かってビシッと指を指す。
「とにかく! 俺は淫行目的にこの子を連れ帰ったわけじゃないぞ! 俺はきちんと【保護】を目的にだな?」
[なるほど、そうですか]
んん? なんだ? やけに物分かりが早いじゃないか? さすが、世界最先端且つ最高技術の人工知能と言ったところ──。
[──では、主様が先日大量にご購入された年齢制限付きの電子書籍数十冊とこの子は、全くもってなんの関係もないと断言できるのですね?]
「──ごめんなさいこの悪魔君の見た目は超好みなんですマジでドストライクなんですスミマセン」
さすが、人工知能。恐るべしだ。
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