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カワイとの魅惑的なハグタイムを終えて、俺はカワイの温もりが沁み込んだスーツから渋々と部屋着に着替える。
そこでふと、俺は大事なことに気付いた。
「あっ、そうだ。いつまでも俺の服を着させるのもそれはそれで可愛いけど、さすがに動きづらいだろうし、カワイ用の服も買わなくちゃ。……ゼロ太郎、カワイの服のサイズって分かる?」
[分かりますが、その情報をなにに使うおつもりですか? 返答次第では、私たちの契約を即時撤廃させていただきますが?]
「俺の独り言、割と大きな声量だったよね? 聞いてたよね? 分かるよね?」
俺たちの契約ってそんな、ゼロ太郎側から破棄できるものなの? 怖すぎるでしょ、家主ビックリだよ。
部屋着に着替えてからスーツを片付けつつ相槌を打つ俺に、ゼロ太郎は妙に哀愁漂う物言いで言葉を重ねた。
[正直に申し上げますと、今朝『どうして主様はカワイ君の枕は注文するよう申し付けてきたくせに、お洋服は用意して差し上げないのでしょう』と思っておりました]
「えっ、言ってよ。気付いていたなら言ってよ、報連相しよう?」
[──と言うわけで、日中のうちに注文しておきました。明日には届くでしょう]
「──報連相はナシなのに行動力だけ異様に高いのどうにかならない?」
このマンションに友達とかいないけど、他の部屋に搭載されている人工知能もこんな感じなの? それとも、俺がなにか間違えた?
まぁ、いいや。とにもかくにも、カワイのお洋服がこれで準備できて……。
「……ちょっと待った、ゼロ太郎。カワイ用の服、なにを買ったのか注文履歴を壁に表示してくれないかな。今すぐ、命令だよ」
[かしこまりました]
悲しきかな、ゼロ太郎は主である俺に『命令』と言われたら、例えどれだけドン引きしようと異論を抱えようと、応じるしかない。
だから俺は、ゼロ太郎にあまり『命令』とは言いたくないのだけれど。今は、事態が事態だ。俺はゼロ太郎が壁に表示した注文履歴を確認して、それから……。
「ヤッパリ! 案の定ッ、案の定じゃないかッ!」
[なにがですか?]
俺はその場に膝から崩れ落ち、頭を抱えて悶え始めた。
そんな俺を珍しく心配しているのか、ゼロ太郎はほんのりと不安そうな声を出したのだが。今は、それどころではないのだ。
だって、こんなの……こんなの、あんまりじゃないかッ!
「──お願いぃ~っ! デザインも素材もゼロ太郎のセンスに任せるけど、カワイの脚だけは隠さないでぇえ~っ!」
──ゼロ太郎が頼んだお洋服が、全て【脚が隠れてしまう長ズボン】なのだから!
俺は床でもがき苦しみながら、実体を持たないゼロ太郎に縋りつくようなパフォーマンスをした。
「ニーソックスとかハイソックスとかはいいけど、ズボンはっ、ズボンでカワイの脚を隠されたら俺死んじゃうぅ~っ!」
[つまり、その。私は今から、もしかして……?]
ズリズリと膝を床に擦り付けながら、まるで這いずるように俺は移動する。それから『ガッ!』と、力強く壁に手をつけて……。
「──ゼロ太郎、命令だよッ! カワイに与えるお洋服は全て脚が見えるデザインを選び直してッ! 今すぐにッ!」
[──やはり命令されるのですねかしこまりましたよこのドヘンタイショタコンがッ!]
いったい、なんのために今のカワイに俺の短パンを貸していると思っているのだ。分かってない、分かってないよ! ゼロ太郎ったら、主の気持ち全然分かってない! 主ヒステリックだよ!
その後、リビングに戻った俺を見てカワイが「『ドンドンッ』て音が聞こえたけど、大丈夫? また転んだの?」と心配してくれたのだが、完全に不機嫌状態となったゼロ太郎が[心配するだけ時間の無駄ですよ]と言ってくれたので、今の会話はカワイの知らない話として永久封印された。
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