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だからこそ起こる、俺の発作。
またの名を、駄々こね。
「こんなに俺想いのカワイと離れるなんて、ヤッパリ良くないよな! うん、良くない! 今日は有給を取って、飲み会もキャンセルしよう!」
そうと決まれば、早速会社に電話だ! もう俺は止められないぞ、フハハハッ!
上機嫌な俺を見て、ゼロ太郎はカワイにピシャリと告げ口した。
[カワイ君、こうなった主様は手早く追い出すに限ります。長引くと、こちらが不利になりますので]
「そうなの? 分かった」
ゼリー飲料を吸っていたカワイが、コクリと頷く。
すぐにカワイは、俺の腕をくいっと引っ張る。なんだなんだ、どうしたんだ? 俺は電話をかけるために触っていたスマホから顔を上げて、カワイを見下ろす。
「ヒトの気持ち、正直に言うと全然分からない。だけど、ゼロタローも心配してるよ。もちろん、ボクも。だから、ムリはしないでね」
「ふっ、二人共ぉ~ッ!」
ゼロ太郎にはできないので、代わりに二人分の勢いでカワイにハグをする。そうするとカワイが「んぎゅっ」と可愛い悲鳴を上げたような気がするけど、気のせいだろう。
「俺の味方は二人だけだよっ! ありがとう~ッ!」
「うんうん」
俺の腕の中にいるカワイにトンと胸を押されて、俺はそのまま体の向きをぐるりと反転させられた。
気付けば、カワイの手には俺の出勤用鞄が握られている。それが、流れるような動作で俺の手に移された。
それでも俺は、カワイとゼロ太郎への感謝並びに駄々を説き続ける。
「二人と離れるなんて耐えられないッ! 二人がいない会社も飲み会も嫌だよ~ッ!」
「うんうん」
「ヤッパリ今日はもう有給取得で会社を休んでお家から一歩も出な──」
──ドン。
いつの間にか外靴を履き、玄関扉が開き、カワイに力強く背中を押された。
……いや。今のは『押された』と言うより、どちらかと言えば『押し飛ばされた』って感じの……?
「あれっ? カワイ? ゼロ太郎?」
気付かないうちに部屋から押し出されていた俺は、くるりと扉を振り返る。
それと、ほぼ同時。扉の向こう側から『ガチャッ』と、無情な音が聞こえた。
ここまでされて俺はようやく、本当にようやく、気付いたのだ。
「──施錠、された……」
メチャメチャ強引に、出勤させられてしまった。……ということに。
「あー……」
カワイに持たされた鞄をしっかりと握り、俺はなんとも言えない感情を一音に乗せる。
それから天を仰いで、誰に伝えるでもなく、呟いた。
「カワイ、意外と力強いんだなぁ~……」
抵抗をしていなかったとはいえ、あっさりと追い出されてしまった現状を受け止めよう。
俺はガクリと肩を落とし、トボトボと歩き始めた。
いや、さすがにね。さすがに俺も、社会人ですから。急な休み申請は、迷惑がかかっちゃうってことくらい分かってますよ? 社会人ですからね?
でも、だけど……!
「──強引なところも魅力的だと思うけど、次は別れを惜しんでくれるパターンを見せてくれないかなぁ……!」
[──サッサと出勤してください]
結論。
カワイとゼロ太郎のおかげで、今日も俺は元気に出勤しています。
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