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フローリングの冷たさが、火照った体を冷ましてくれる。
こんな些細なことにも感動しながら、俺はうつ伏せで倒れたままの姿勢で手だけを動かした。
「カワイ~! 俺のカワイはどこだぁ~っ!」
「ここだよ」
「おぉっ、カワイ~っ! 今日もカワイは可愛いなぁ~っ! 歩く姿は百合の花もとい可愛いだなぁ~っ! まぁ、歩く姿見えてないんだけどっ!」
「ありがとう。ヒトはうつ伏せで倒れていてもカッコいいね」
「なんて可愛い奴なんだ! このっ、このこの~っ!」
「ヒト、くすぐったい」
視界に入ったのは、カワイの足。部屋用のルームシューズ的スリッパから覗く足首を、ツンツンとつついた。
でっろでろの、ぐっでぐで。駄目な男に成り果てた俺を見て、ゼロ太郎がポンと冷静な指示をカワイに送る。
[カワイ君。申し訳ありませんが、主様をリビングまで運搬していただけますか。今の主様は自立歩行ができませんので]
「分かった、頑張る」
あぁ~っ。カワイに引きずられているぅ~っ。俺はズリズリとカワイに引っ張られながら、それでも会話を続行した。
「ねぇ、カワイー? ずっと気になってたんだけど、カワイが履いてるそのスリッパってネズミなの? ウサギなの? どっちなの~? なんにしても、可愛いねぇ~っ?」
「ありがとう。それよりもヒト、ここで靴下脱がないで」
「だって暑いんだもぉ~んっ」
靴下、ポイポイッ。あ~、フローリングが裸足に気持ちいい~っ。
カワイの健闘によってリビングに運搬された俺は、そのままぐでぇ~っと床に倒れ込んだ。俺を引きずってくれたカワイの手を、しっかりと握りながら。
「あ~っ、カワイの手だぁ~っ。ところで、カワイのこの手は悪魔仕様なのかなぁ~? 指先だけ色が違うのも可愛いねぇ~っ? 色が違うって言うか、なにこれ? なにを纏っているの? でも可愛いよぉ~っ」
「ありがとう。それよりもヒト、ネクタイを床に投げないで」
「だって苦しいんだもぉ~んっ」
ゴロリと、体を反転。床に倒れ込んだ俺は、今度は仰向けになった。
すると、なんということだろう。素敵で無敵な青春を彷彿とさせる興奮が、俺の目の前に!
「あぁあああッ! カワイの太腿ッ! エッチだッ! いいねッ! 悪魔特有の紋様も可愛いねッ、最高だよッ! もっとッ! もっとちょうだいッ、このアングルッ!」
「ありがとう。それよりもヒト、仕事用の服のまま寝ないで」
「あぁんッ、カワイのエッチーッ!」
シュパッと、上着を奪われてしまった。まったく、カワイは積極的だなぁ。
「よし、分かったよ。カワイがそんなに俺を求めてくれるなら、俺も本気を出そうかな」
「よく分からないけど、どうして床の上でモゾモゾ蠢いているの? ヒト、なんだか虫みたい」
起き上がりたいのに、起き上がれない。駄目だ、一度横になったら最後、俺はもう芋虫のようにただ丸まることしか……。
「うえっ、無理、むり……。ちょっ、枕、枕ちょうだい……。フローリングに頭置くと痛い、ガチで……」
あと、気持ち悪い。水、水が欲しい。それか、しじみのお味噌汁。あと、ふかふかのお布団と、それと、それと……。
[カワイ君、なんと言いますか。……本当に、主様がごめんなさい]
なぜか人工知能が主人の代わりに主人の言動を謝っている気がするけど、きっと気のせいだよね。俺にはよく分かんないや。……おえっ。
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