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 グロッキー、一歩手前。息絶えたセミの如く、俺は仰向けのままぐったりと脱力していた。  そんな俺を見下ろしながら、カワイはいつもと変わらない冷静な言葉を返す。 「手を離してくれないと、枕を取りに行けない。だからヒト、一回ボクの手を離して」 「水も、ください……」 「分かった。だから、手を離して。後でいっぱい繋ぐから、ね」  名残惜しい、名残惜しいよ。だけど俺は、カワイの手を離した。  すぐにカワイはパタパタと足音を立てながら、枕と水を用意してくれる。俺はぐったりと床に寝転んだまま、カワイが戻ってくるのを待った。 「はい、水だよ。飲める?」 「カワイの口移しがいいなぁ~」 [は?] 「ゼロ太郎って、まだ声、低くなるんだね……」  かなり低めの声に設定したつもりだったけど、底の見えない人工知能だ。  なんとか起き上がり、カワイが持って来てくれた水を飲む。……うん、おいしい。水道水、最高だ。 「枕も持ってきたけど、使う? それとも、起き上がったからもう必要ない?」 「カワイの膝枕がいいなぁ」  今度はゼロ太郎に凄まれたって引かないぞ! 俺は断固として絶対にカワイの膝枕を所望するんだいっ!  枕を両手で抱いたまま、カワイはコクリと縦に頷く。 「知ってる、膝枕。太腿の上に頭を乗せる行為だよね。なのに、どうして【膝枕】なんだろう」 「えっ、知らない、なんでだろう……。後でゼロ太郎に訊いてみて」 「分かった」  素直な返事をした後、カワイはその場にストンと座る。 「はい、ヒト」 「んん~、なにぃ~……?」 「──膝枕。してあげるから、頭乗せて」 「──えっ、マジで?」  キラリと輝く、俺の瞳。カワイは普段通りの無な表情で、ポンポンと自分の太腿を叩いた。  えっ、いいのっ? 本当にっ? これにはゼロ太郎も文句を言えないらしく、黙っている。  ──ということは、膝枕されていいんだっ! 「お邪魔しまぁ~すっ!」 「ようこそ」  ほっ、ほわぁ~っ! スベスベ、ぷにぷに……! なっ、なんじゃこりゃっ! どんな高級枕だって勝てないぞ、この質感に!  最高がすぎる。本当にこれは合法なのか? そう疑い、俺は気付く。 「あっ、これ、夢か。つまり、そうか。俺、飲み屋で飲み過ぎて、そのまま寝ちゃったんだ」 「人間は現実か夢かを確かめるとき、頬をつねるんだよね。だからヒトの頬、つねってあげる」  ぷにっ。カワイが俺の頬を、つまんだ。  ……うん。痛くない。つままれただけだから痛くないとか、そういう話かもしれないけどさ? でも、痛くないぞ。  ということは、つまり……! 「痛く、ない。……ヤッパリ夢だぁ~っ!」  カワイになにをしたって、これは夢! ヒャッホウ! 夢、最高っ!  俺は現状が夢だと理解した後、飛びつくようにカワイへと抱き着いた。 「はぁ~っ、カワイ! 細いねっ、華奢だねっ、可愛いね~っ!」 「ヒト、ちょっと苦しい」 「なんだようっ。夢なんだから、そんなつれないこと言うなよ~っ」  さては照れ隠しだな? クールなカワイもいいけど、ツンデレなカワイもいいと思うよ! むしろ、ありがとう!  カワイの可愛いを嗜んでいると、俺に抱き着かれたカワイがブツブツと考察を始めた。 「頬をつねったのに、ヒトは『夢』って言ってる。……つまりこれは、夢?」 [カワイ君、落ち着いてください。落ち着いて、主様をぶっ叩いて差し上げてください。先ほどよりも、力を十倍にして] 「十倍……。えいっ」 「いた可愛いっ!」  頬をスパンと叩かれ、文字通り現実を痛感させられる。残念無念、これは現実。  ……いや、現実の方が大変ありがたい状況なのではないかっ? 俺の頭は既に、冷静且つ正しい判断ができなくなっていた。

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