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 だが、現実だと言うのならばセクハラまがいのハグは自重しよう。  ということで、俺は膝枕だけを続行する。頭上からゼロ太郎に[それもセクハラです]と言われた気がするけど、ほろ酔いの俺にはよく分からないや。  俺はカワイの腿に頭を載せたまま、カワイとの会話を楽しむ。 「あのね、カワイ。この世界には【キャッチボール】っていうコミュニケーション術があるんだよ」 「キャッチボール?」 「ゼロ太郎、参考動画を再生して」 [はあっ、かしこまりました]  ため息の後、ゼロ太郎は空中に一本の動画を表示した。  子供と大人がボールを投げ合い、キャッチをする。絵に描いたようなキャッチボールだ。 「キャッチボールはさ、言葉なんてなくても思いが通じる素敵な文化なんだよ。マジで大発見、大発明、尊敬、すごい」 [カワイ君。今のくだりは話し半分で聞き流してください。語弊まみれですので] 「分かった」  ゼロ太郎から塩い反応を唆されている気もするけど、カワイはうんうんと頷いてくれている。  それがなんだか嬉しくて、俺はつらつらと言葉を並べてしまう。 「だけどね、大人は自分の気持ちを知ってもらうためには、言葉を遣わなくちゃいけないんだよ。退化だよね、退化。どういうことなんだよぅ、信じられないよぅ……」  ベソベソ、めそめそ。俺はカワイに膝枕をしてもらいながら、さめざめと泣く。  そんな俺の頭を、カワイが優しく撫でてくれた。 「よしよし。つまり、ヒトはなにが言いたいの?」 「飲み会で上司と部下の仲を取り持つの疲れた。癒してほしい……」  誰に強要されたわけじゃないけどさ、率先して自らその役目を担ったけどさ? それでも、気疲れとかするんだよ。俺だって感情を保有する生物なんだからさ。  カワイは、俺のライフがゼロ間近だと分かってくれたのだろうか。頭を撫でる手がピタリと止まり、それから……。 「──ぎゅっ」 「──えっ、好き……」  俺の頭を、まるで卵を孵す鳥のように両腕で包み込んでくれた。  あっ、孵っちゃうよ。孵っちゃうって言うか、返っちゃう。赤ちゃんになっちゃう、母胎回帰しちゃうよぉ~っ。  すかさず、俺はカワイの体に腕を回す。ゼロ太郎が[そこまでは許可していません、主様。離れてください]と注意をしてくるけど、今の俺は赤ちゃんだからなにも分からない。  カワイの温もりに抱かれて、数秒。俺は恐る恐る、口を開いた。 「カ、カワイ……! 俺っ、俺……っ!」 「うん。なに、ヒト」  俺は、俺は……! 「──ごめんなさい。興奮によって、アルコールが猛スピードで体を駆け巡ってきた……。率直に言うと、吐きそうです。トイレに行きたいので、肩を貸してください……」 「──人間って、脆弱だね」  己の情けなさが申し訳なさすぎて、ただただ純粋に、ごめんなさいだよ。  カワイの肩を借りつつ、俺はトイレに直行。ゼロ太郎がまたしても頭上から[言い逃れできないほどの無様さですね、主様]と俺を詰ってきた気がしたけど、それどころではないのでスルーしよう。……真に受けたら、泣いてしまいそうだ。

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