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 気付けば俺はベッドから降り、カワイと対面していた。  ガシッと、カワイの肩を掴む。カワイは袋を手にしたまま、綺麗な瞳をパチパチッと瞬かせた。 「え? チューチュー、しちゃった」 「もう一回言って」 「……チューチュー?」 「もう一回言ってッ!」 [──カワイ君、思いきり鳩尾を殴ってやってください。気絶してしまうほど大喜びいたしますので] 「──カワイに変なこと吹き込まないでよ!」  ちょっと顔と言葉にメロメロしていただけじゃないか、まったく!  それにしても、そうか。カワイはあのゼリーを『ドロドロ』と呼び、そして『チューチュー』と言うのか。……ふっ、ふふ、ふふふっ! 「──ありがとう、カワイ。メチャメチャ癒されたよ」 「──ヒトが、トイレで吐いた後以上の爽やかな顔をしてる……」  カワイの『チューチュー』で、もう今週いっぱいは乗り切れちゃうな。すごいよ、カワイ、君って子はすごい。  さて、と。もう少しカワイの『チューチュー』を堪能したいけど、さすがにそろそろ寝ないとな。このトキメキは、心の中で反芻させよう。 「さぁ、カワイ。一緒におねんねしようねぇ~っ」  ということで、レッツ、ベッドイン。言うまでもなく、健全な意味でだぞ。 「うん、分かった。でも、これだけ片付けてくる」 「ごめんね、ありがとう~」 「うん。ヒトは先に毛布を温めておいて」 「湯たんぽみたいな言い様だけど、ときめくぜ」  カワイは袋を抱えて一度、リビングに向かう。  ちなみに、カワイの寝間着は俺のティーシャツだ。ゼロ太郎が選んだ寝間着もあるのだが、カワイは俺のシャツがいいと言って、なかなかゼロ太郎が選んでくれた寝間着を着てくれなかったりする。  カワイ曰く。 『ヒトの服を着ると、ヒトにギュッてされてるみたいで安心する。だから、ヒトの服を着て寝ると安眠』  指でブイサインを作りながらそう言われたら、貸すよね。むしろあげちゃうよね、うんうん。  だがプレゼントしようとすると『それだとヒトの服じゃなくなるから、要らない』と言われてしまった。なんて可愛い拒否だろう、昂る。  そんな、本日のカワイのお召し物は、シャツの全面に大小様々な月がプリントされていて、妙に達筆なフォントで【Good Night】と書かれたティーシャツだ。俺のお気に入りのひとつとも言える。  だってこれ、素敵な眠りを誘うような柄と文字のくせにシャツの色が赤なんだよ? カッコ良くない? ハイセンス。……ちなみに【Good Night】の文字は緑色。素晴らしい。 「お待たせ」 「おかえり、カワイ! さぁ、隣においで~っ」 「うん」  余談だが、俺が着ているシャツは『働いたら負けって言ってる自分が敗者』と書かれている。名言だと思ったので即刻購入した。なお、ゼロ太郎にはすごく嫌がられたという余談付き。解せない!  カワイはベッドに乗り、俺の隣で寝転がる。あぁ、今日も可愛いなぁっ。俺、一日でこの時間が一番好きだよ~っ。 「おやすみ、カワイ」 「うん、おやすみ。アルコール、飛ぶといいね」 「そうだねぇ~」  正しくは『抜ける』な気もするけど、カワイが俺の身を案じてくれて嬉しいので、そのままで。  俺たちは同じ毛布に包まり、目を閉じた。  ……いつも、飲み会の後は怠さ全開な状態で寝ていたから、少し不思議な気持ちだ。ゼロ太郎は俺に口で色々指示してくれるけど、自分ではなにもできなかったからなぁ。  本当に、カワイとゼロ太郎には感謝でいっぱいだ。なんだか妙に満たされた気持ちで、俺はゆっくりと微睡みの中に沈んでいった。

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