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 翌朝の俺は、かなりスッキリとした寝覚めを実感していた。  頭は痛くないし、気分も悪くない。むくみ……は、よく分からないけど。とにかく、昨日の飲み会で酒をあれだけ呷った翌日とは思えないくらいの絶好調ぶりだ。  そして、なによりも……。 「パン、おいしい。甘くておいしい」  保存食として缶詰めに詰まったパンを食べるカワイが、ゼリーを吸っているときとはまた違った可愛さで気分も上々だ! 「なるほど、カワイは甘いものが好きなんだね。それなら、こっちも好きだと思うな」  ネクタイを締めつつ、俺はパイナップルの缶詰めを開けてみる。小首を傾げて缶詰めを見つめるカワイに、早速渡してみた。 「おぉーっ。甘くて酸っぱくておいしいっ」  なるほど、なるほど。確信になったぞ。カワイは甘いものが好きなのだ。  パンとパイナップルを頬張るカワイを眺めて癒されていると、ポンとゼロ太郎の声が響いた。 [ところで、ひとつ疑問があるのですが。カワイ君は悪魔で、魔力を主食として存在している生命ですよね。それなのに、どうして空腹で行き倒れを?] 「人間界の空気は魔力濃度が低すぎる。最初は摂取するの、難しかった。……ボク、魔力の扱いが得意じゃないから」  なんだそれ、推せる。魔力の扱いが不得意な悪魔とか、可愛すぎるだろ。  ゼロ太郎の質問にちょっぴり照れくさそうな様子で答えた後、カワイは水を飲み、それから俺を見た。 「ヒトはコレ、食べないの?」 「うん、俺はいいかな」  十秒あればエネルギーチャージできるこれで充分だしね。俺はいつも通り、冷蔵庫からゼリー飲料を取り出した。  だが、カワイは思うことがあるらしい。パンをフォークで刺し、それから俺を見上げた。  そして、まさか……まさかのッ! 「──ヒト、あーん」 「──えっ!」  ──カワイ自ら『あーん』を提案してくれたではないか!  キタコレ、キタコレ! 死語かもしれないけどキタコレだ! 俺は冷蔵庫からピュンと素早く移動し、カワイが居るテーブルに近付いた。 「一緒に食べた方が、おいしい。だからヒト、あーん」 「食べる食べる~! あーんしてっ、あーんっ!」 「うん。……あーん」 「あー、んっ!」  すっ、すごいっ! 乾パンって初めて食べたけど、想像していたよりもおいしいんだ! 「なんっだこれ! 三ツ星シェフが焼いたパンなんじゃないかッ?」 [違いますよ]  冷静なゼロ太郎のツッコミなんて心に届かないほど、感動しているぞ!  大興奮しながらパンを咀嚼する俺を見て、カワイは普段と変わらない無表情のまま、言葉を紡いだ。 「ご飯はちゃんと食べないとダメだよ。人間は脆弱な生き物だから、食事は大事なんでしょう?」 「あー……」  人間は脆弱、か。確かに、それはそうだよね。悪魔に比べたら、人間は脆弱だ。  だから、カワイの心配は正しい。……正しい、けど。 「うん、ありがとう。これからはもう少し、気を付けるね」  俺には不要な心配なんだよ、それは。  ……なんて。俺の返事を聴いて頷いてくれているカワイには、言えないけどさ。

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