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まさか、二日連続でカワイと通話をする必要が出てくるとは。俺の心はあまりに脆い。
報連相という建前のもと、癒しを摂取するために。昼休憩を迎えた俺はゼロ太郎に頼み、昨日と同様に自室との音声通信を繋いでいた。
「もしもし、カワイ? 聞こえる?」
『うん、聞こえる。ゼロタローが通信、繋いでくれたから』
「さすが有能なゼロ太郎だ! ……じゃなくて。ごめんね、カワイ。帰り、もしかすると日付変わっちゃうかも」
やれと言われたら、やる。相手が上司なら、なおのこと。
立派な社畜根性を抱えた俺は、ゼリー飲料を吸いながら決意を固めていた。カワイにこうして宣言をしたのだから、なにを賭してでも必ず成し遂げるのだ。
「帰ってからご飯食べるけど、カワイは先にご飯食べちゃっていいからね? 昨日買ってきたものでも、他に食べたいものがあったら出前でもなんでもして食べていいから」
まぁ、俺の晩ご飯はゼリー飲料になりそうだけど。食にこだわりがない俺は『とりあえず三食は食っておけ』的な精神に則って、なにかを胃に流し込むだけだし。
だがカワイは、意外な返事を口にした。
『ううん、待つ。ヒトの帰り、ゼロタローと一緒に待つよ』
カワイなら、ひとつ返事で応じると思ったけれど……。意外にも、カワイは俺の提案を拒否した。
胸がギュギュッと絞られるほど、嬉しい。カワイが俺の帰りを待っていてくれるなんて、嬉しいに決まっているのだ。
だが、さすがに待たせるのは忍びない。ただでさえいつも部屋の掃除や洗濯をさせてしまっているのだから、休めるときはしっかり休んでほしいのだ。
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、本当に帰り遅くなっちゃうからさ。お腹も空くだろうし、眠くなるよ?」
『悪魔は人間と同じ食事と睡眠をとらなくても平気。……それに』
カワイが一度、言葉を区切る。それから、すぐに──。
『──ヒトがいないとご飯はおいしくないし、夜も眠れない。だから、ヒトの帰りを待ちたい』
なん、だと。俺の胸を絞るどころか、引き千切りにきた、だって?
もしも今、俺が普通の電話と同じようにスマホを手にしていたら。きっとそのスマホは急転直下し、ブルーなりレッドなり、スクリーンの色を変えていたことだろう。
俺の心情なぞ、露知らず。カワイは淡々とした普段通りの口調で続ける。
『お仕事、ムリしないでね。帰ってきたら、ギュッってしてあげる。ヒトがボクにそうしてくれると、胸の辺りがふわ~ってなるから』
「カワイ……」
『ゼロタローと一緒に、ヒトが帰ってくるの待ってていい?』
「……うん、いいよ。ありがとう、カワイ」
通話を終えて、昼休憩も早めに切り上げ。俺はスマホをポケットにしまい込み、事務所に戻る。
すると、これからお昼なのだろうか。コンビニへ向かうためにいそいそと準備をしている月君と、目が合った。
「あっ、センパイ? カワイ君と電話、繋がりました? ……って、どうしたんですか? なんだか、足取りが重いですよ?」
俺は椅子の背もたれをガッと勢いよく掴み、すぐに着席。
それから、両手で顔を覆い……。
「──俺の同居人、マジで天使すぎる」
「──拾ったのは悪魔では?」
俺は、事務所の天井を仰いで幸福を噛みしめた。
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