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[……と言うわけで、主様はオンとオフでとてもギャップがある青年なのです。ご理解いただけましたか?]
「うん」
「なぜだろう。どちらも素の自分なだけに、かえって居た堪れない」
ゼロ太郎による俺紹介が終わり、カワイはうんうんと頷いている。俺は苦笑いを継続させたまま、正座も続行していた。
「それじゃあ、ヒトの帰りが遅いのは【仕事ができないから】じゃなくて【仕事ができるから】なんだね」
[仰る通りです。主様は生きていく上での基本は全くもって低レベルで、あちらの部屋に敷き詰められているゴミと同等なのですが、しかし、基本的にはなんでもできるお方です]
「基本はできないのに?」
[基本はできないのに、です]
「──やめて、本当に居た堪れない……」
仕方ないじゃん、家事は苦手なんだよ。なんて言うか、自分のためになにかをするのはどうしても優先順位が下がるって言うかさ……ねっ?
正座のまま俯く俺を放って、二人は価値観のすり合わせを続けている。うぅ、胸が痛い。褒められてはいるけど哀れまれてもいるから、余計に居た堪れないんだよ……。
チクチクと胸を痛める俺を振り返って不意に、カワイは目線を合わせるようにしゃがみ込む。そして、べそっと情けない顔をしている俺を見てから、口を開いた。
「──でも、ボクにとってヒトは、いつだってカッコいい男だよ」
……。……えっ?
顔を上げた先にある、カワイの顔。それは……。
「あの部屋はビックリしたし、仕事ができるのもちょっとビックリした。でも、例えヒトが家事も仕事もダメダメだったとしても、ヒトはカッコいいよ」
カワイが、冗談を言っている……ようには、見えない。
しゃがみ込んで、立てた膝に肘を載せて。カワイは自分の頬に両手を当てながら、真っ直ぐと言葉を発する。
「あのね。今さらだけど、ヒトが仕事に行くときのその服……」
「あっ、スーツのこと? これが、どうかした?」
「それ『スーツ』って言うんだ。うん、覚えた」
もしかして、変っ? 似合ってないっ? いやでも、前に『カッコいい』って言ってくれたはず。
えっ、えっ? じゃあいったい、カワイはこの流れで俺になにを──。
「──ホントに、とってもカッコいい。初めて見た時から、ヒトのスーツ姿は見ているだけで胸がギューッてする」
薄く、口角を上げて。瞳を細めながら、カワイは言葉を続けた。
「オンとオフのギャップ、は、よく分からないけど。でも、その服を着たヒトが会社だとすごくすごいってことは、分かる気がする。だって、カッコいいから」
「……」
「ヒトは、カッコいいよ。とっても、カッコいい」
カワイが、ニコニコしている。笑顔を浮かべて、少し弾んだ声で、俺に『カッコいい』って……。
ならば、俺が返すべき言葉はこれだけだ。正座をした膝の上で両の拳を握り、俺は口を開いた。
「──スーツ、部屋着にしようかな」
[──やめてくださいね]
カワイという悪魔を保護して、一週間と少し。俺は生物学的な意味合いを度外視して、心の底からこう思った。
──カワイは、俺を駄目にする小悪魔ちゃんだ。……と。
2章【未熟な社畜をギャップ証明しました】 了
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