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 前略。ヒトの名誉は、ボクが挽回する。 「──ということで、これから中華風のサラダを作るね。そんなに難しくないと思うから、ヒトもすぐに作れるようになると思うよ」  時刻は、夕方。ボクはまな板を掲げて、隣に立つヒトを見上げた。  今日の晩ご飯を作る工程を、ヒトに見てもらう。ボクとしてはヒトに料理スキルなんて必要ないと思うけど、ヒト自身が欲しいと思うなら話は別。  だから、目の前で実践。分からないところは訊いてくれたらすぐに答えられるし、ヒトのペースに合わせて料理をしたらいい。動画を見るより、分かり易いはず。  ボクを見ながらメモ帳とペンを持つヒトは、ウンウンと頷く。 「なるほど! サラダは野菜を切ってドレッシングを混ぜたらできそうだからね、俺でもできそうだね!」 「うん。だけど、サラダだけじゃ物足りないから……」 [では、オムライスも作りましょう]  ゼロタローの発言を受けて、ヒトはなぜかガガンとショックを受け始めた。 「えぇっ、オムライス? 俺、ライスを玉子で包むとかできないと思うんだけど……」  ヒト、すっかり自信消失しちゃってる。  もごもごと喋るヒトを見て、さすがに『フォローしよう』という気持ちが芽生えたのかもしれない。ゼロタローが、ヒトを慰めるように──。 [その辺りは全く期待しておりません。ライスの上に玉子を乗せてケチャップをかけることさえできれば、それでもうオムライスです] 「おうっふ。人工知能の提案なのに、とてもザックリとしているね……」  ……なんてことはなく、ゼロタローはゼロタローだった。これには感心するしかなかったのか、ヒトは『柔軟な思考に育って……』と言いたげだ。  とにもかくにも、メニューが決まった。ボクは髪をひとつに結んで、エプロンを装着。ヒトはメモ帳とペンをしっかりと手に持って、真剣な顔になった。 「よろしくお願いします、カワイ先生、ゼロ太郎先生」 「うん、お願いされるね」 [お願いされます]  ヒトに、見られてる。……いいところ、見せなくちゃ。  いつもとは違う緊張感を抱きながら、ボクは手を洗って料理を始める。そんなボクを見て、ヒトはペンを滑らせて──。 「──うわぁいっ! 可愛い横顔だぁっ! 最高だよっ、カワイ! これは俺にとってご褒美だっ! ありがとうカワイ~!」  ……えっと、あれ? よく分からないけど、大喜びしている? みたい。ヒトが嬉しいなら、ボクも嬉しい、かな。うん。 [主様、カワイ君と私の邪魔をしないでください] 「ただ作業風景を眺めているだけなのだがッ?」  ゼロタローは怒ってるけど。  ヒトがボクを見ているだけで喜んでくれるのは嬉しいけど、だからって集中力を切らしちゃダメだ。ボクは『全然気になってないよ』と言いたげな態度を見せながら、作業を続ける。  そんなボクを見て、ヒトは思うことがあったみたい。 「でも、折角カワイから料理の作り方とか手順を教わっているからね。もっと真剣に、集中しなくちゃ」  もう一度、ヒトの表情がキリッとした。……カッコイイ。胸の奥がキュッてしちゃった。  ……はっ。と、とにかく。ヒトのための料理教室、スタートだよ。

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