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 ──これは、すごくすごい。 「ヤッパリ、疲れたときにはカワイを抱いて寝転がるに限るなぁ~っ」  帰宅して早々、ヒトはスーツから着替えもせずにベッドへ寝転んだ。  そのままチョイチョイッて手招きしてボクを呼んだから、ボクは素直にベッドへと近付いたんだけど……。そのまま手を引かれて、今はベッドで一緒に寝転がっている。  ヒト、どうしたんだろう。いつもスキンシップは多いけど、スーツから着替えないのは珍しい。  ボクは顔を上げて、近くにいるヒトを見上げた。 「ヒト、疲れてる?」 「んぅ~、そうかも? 変質者の撃退は楽じゃないねぇ。普段使わない筋肉を準備運動も前置きも無しで使ったから、反動ががが」 「今のヒト、壊れた機械みたい」 [機械と一緒にしないでください]  ゼロタローの怒るポイントはよく分からないけど、イヤだったみたい。ゼロタローは壊れた機械じゃないのにね。  気にした様子もなく、ヒトはゴロゴロしてダラダラしている。 「幸せって、こういう匂いなんだろうなぁ。くんくん、すぅはぁ、くんくん。……はぁ~っ。なんでカワイって、こんなにいい匂いがするんだろう? 好きぃ~っ」 「服は、ヒトと同じ洗剤で洗ってるよ? シャンプーもボディーソープも、全部ヒトと同じだよ?」 「そうなんだよねぇ~っ、不思議ぃ~っ」  ボクが思っているよりも、人間の嗅覚は微細な香りの嗅ぎ分けができるのかもしれない。  ヒトはボクにくっついたまま、ボクの頭に顔を埋めている。ボクとしてはドキドキして仕方ないんだけど、ヒトにとっては動物のお腹に顔を埋めているのと同じなんだって分かっているから、過度な期待はしない。 「カワイはさ、可愛いし料理も上手だし、頭がいいし可愛いし、器用だしいい子だし、可愛いでしょう?」  いっぱい褒められた。嬉しい。……でも、過度な期待はしちゃダメだ。まだ、ボクとヒトの【好き】は違う意味なんだから。  ヒトはボクの背中に腕を回したまま、どこか寂しさを滲ませているような声音で、ポソポソと呟いた。 「だからね、時々思っちゃうんだ。『こんなにいい子のこと、俺が独り占めしちゃっていいのかな』って」  ……違う。ヒト、違うんだよ。  ボクはヒトにそう思ってもらいたいから、ヒトに好かれたいから、努力を続けているだけ。ヒト以外の誰にも、ボクは【ヒトが思うようなボク】にはなれないんだよ。  それにボクは、ネコの時に命を助けてもらったようなものなのに、お礼を言えていない。キミが拾ってくれたその夜に、授業のタイムリミットでボクはキミの前から姿を消したんだ。  ボクは、いい子なんかじゃない。隠し事も下心もいっぱいの、ズルい悪魔なんだよ。 「ねぇ、ヒト」  ……なんて。まだ、なにひとつとして言えないけど。 「──独り占め、してほしい。ボクの全部、ヒトのものだから」  今は、これだけ。今のボクには、これしか言えないから。……だから、言えることを伝えた。  ヒトの胸を押して、ボクの頭からヒトの顔を離す。それからボクは、至近距離でヒトと見つめ合った。 「確かボクたち、前にもこんな話をしたよね。『独り占めしたい、してほしい』って。……ふふっ。変なの」 「カっ、カワイ……! 君って子は、本当に……!」  なのにまた、ヒトがムギューッと強い力でボクを抱き締める。 「大好きだよっ、カワイ~っ! 俺だけのカワイ~っ!」 「ホント? じゃあ、ボクと結婚してくれる?」 「何億回でもいいともーッ!」 「決まりだね。ゼロタローが仲人ってことで」 「大賛成ーッ!」 [──全然嫌です]  この『好き』が、ボクの【好き】と違ってもいい。  だってボクは、悪い子だから。いつか絶対、ボクと同じ意味の『好き』を言わせてみせるからね。……って。そんな下心と野心を持っているんだもん。  始まりは小さな初恋だったけど、今は違うから。だから、見ていてね。余所見なんて許さないよ。  先ずは、下心カレーを作ってヒトの胃袋をゲットするんだからね。ボクは決意を新たに、とりあえず今だけはちゃっかりと、ヒトとのスキンシップを堪能した。 4章【未熟な悪魔の小さな初恋でした】 了

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