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工芸茶とやらに思いを馳せているカワイを見て、俺は笑みを浮かべながら訊ねた。
「カワイ。……人間界、楽しい?」
返事は、即答だ。
「うん、楽しいよ」
「そっか」
そうだよな。折角カワイは人間界に来たんだから、もっと人間界らしい文化に触れるのもいいことだよ。
人間界にあって、魔界にないもの。人間界──……日本の、文化。
日本の文化と言えば、つまり? ……つまり、そう!
「カワイ、コスプレに興味はない?」
[──墓石にはなんと刻みますか?]
「──話が飛躍しすぎだよ!」
俺の名案に対し、なんて失礼な! いや、ゼロ太郎が俺に対してこんな態度なのは全然いいんだけどさ!
話の流れが全くピンときていない当のカワイはと言うと、小首を傾げていた。
「コスプレって、なに?」
「普通のお洋服と違って、例えばそうだなぁ。アニメのキャラクターの衣装だったり、普段着には選べないような個性的な衣装だったりのことだよ。いつもの自分とは違う自分になれる魔法の衣装とも言う」
「ふぅん。……ヒトはコスプレ、好きなの?」
「カワイが着てくれたら嬉しいなぁ、とは思うかなっ」
ズズッと一口、菊花茶を啜る。
それからカワイは、コクリと頷いた。
「じゃあ、いいよ。コスプレ、興味ある」
[──純朴な悪魔を騙して楽しいですか、このヘンタイ]
「──うぐッ! 反論しにくい指摘をしおってからに……!」
ゼロ太郎の冷酷なツッコミが突き刺さり、俺はソファにぐったりと背を預ける。
い、いやいや! 今回に限っては、ある意味で誘導尋問だ! カワイにあんな訊き方をされたらあれ以外の答えなんてないじゃないか!
ということで、俺は珍しくゼロ太郎に反論した。
「なんだよなんだよ! 同意の上ならいいじゃんか! 一体全体、なにがどう駄目なんだよう!」
[──見ていて不快です]
「──百パーそっちの都合じゃん!」
しかし、逆らえない。これが主従逆転ってやつか! くっ、俺とゼロ太郎だと全く萌えない展開と設定だ!
それでも俺は、負けたくない。ここでゼロ太郎からの納得を得なくては、カワイの可愛いコスプレ姿は夢のまた夢。おそらく一生、叶わなくなってしまう。
「コスプレなんて、まさに人間界を代表する偉大な文化じゃないか! 俺は推奨するね! カワイのコスプレを!」
[そうですか、なるほど。ところで主様、カワイ君と旅行の計画を立てたいのですが、何十年ほど不在にしてよろしいですか?]
「わぁあっ! ごめんっ、ごめんなさいっ! 謝るから出て行かないで!」
完敗で、惨敗。俺はガクガクと体を震わせ、カップの中に残る菊花茶を揺らすことしかできなかった。
情けなく言い負かされている俺と冷淡なゼロ太郎のやり取りを眺めながら、カワイは菊花茶を啜る。
それから、なにかに気付いたらしい。ハッとした様子で尻尾をピンと立て、カワイは俺を見つめた。
「──すごいね、ヒト。これが【昼ドラ展開】ってものなんだよね。実物を初めて見たよ」
「──うわんっ! 相変わらず知識が間違ってるぅ~っ!」
冷静で公平なツッコミ役は、不在。俺は、さめざめと泣くことしかできなかった。
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