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ベソをかく俺をものの見事にスルーして、ゼロ太郎がポンと喋った。
[カワイ君は確かに人間界に馴染みましたが、ひとつ……大切なことを失ってしまったようですね]
「大切なこと? なに、それ?」
[警戒心ですよ]
小首を傾げるカワイに対し、ゼロ太郎は淡々と言葉を続ける。
[主様との信頼関係が築かれているのは大変喜ばしいことですが、だからと言って主様の言動全てを肯定するのは些か早計且つ浅慮かと。もう少々、主様を疑うべきです]
「どうして? ヒトのすることに間違いなんてないのに?」
[間違いだらけなのですがね]
「ゼロ太郎? なんだって?」
主を貶すのは些か無礼且つ失礼ではないのかい? いいけどさ、いいんだけどさ?
俺のツッコミ未満な指摘すらスルーして、ゼロ太郎はカワイに忠告を続ける。
[とにもかくにも、カワイ君はこちらの世界で立場が弱いです。社会的地位は無く、我々以外に味方らしい味方もいません。なので、相手が主様の場合は己でカワイ君自身を守らなくてはなりません。……分かりますね?]
「でも、ゼロタローはボクの味方なんだよね? だったら、なにも怖いことはないよ」
[……。…………。……はい]
えっ、嘘でしょっ? ゼロ太郎が絆された上に論破された、だとっ? なんだこれ、レアすぎる光景だ。
無垢でピュアッピュアな返事を受けて、心がブリザードな冷徹人工知能──あのゼロ太郎が、絆された。頭上からは小さな声で[私が必ず守ります……!]とか、決意めいたことまで呟く始末。
恐ろしい、恐ろしい子……! カワイったら、魔性だわっ!
だが、しかし。絆されてしまったとは言え、ゼロ太郎の言い分も俺には分かる。
「確かに、カワイは疑うことを知らなさすぎるね。相手が俺やゼロ太郎であっても、簡単になんでも信じちゃ駄目だよ?」
[いえ、私は嘘を吐きません。カワイ君を騙すようなこともしませんので、その警戒心は主様に向けるべき──]
「あ~っ、聞こえない! ……とにかく! これは所謂【処世術】ってやつだから!」
相変わらず俺には冷徹なゼロ太郎は一旦保留にして、俺はカワイと向き合った。
カワイはマグカップを両手で持ったまま、ジッと俺を見つめる。
「自分に不都合な状況だとしても、相手が人間なら問題ないよ。ボクが魔術で『ぽんっ』てする」
「たぶんだけど、そんなファンシーでポップな音じゃ済まないと思うな……」
実際に魔術なんて見たことないけどさ。でも、たぶんそんな絵本みたいな話じゃ済まないと思うなぁ。
「とにかく、悪魔の方が人間より優れているとしても、それでも警戒心は失くさない。……分かった? 約束だよ? ほら、小指を立てて!」
「ヒトが相手でも?」
「俺が相手でも! ほら、小指!」
「……」
俺が小指を立てると、なぜだかカワイにジッとその小指を見つめられた。
それから、カワイはぷいっとそっぽを向いて──。
「──ボク、悪魔だから難しいこと分からない」
なん、だと? 俺に電流奔る。
カワイが、あのカワイが……!
──なんだか、メチャメチャ可愛いことを言い出したぞっ!
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