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俺はマグカップをテーブルに置き、カワイの両肩をガシッと掴んだ。
「どっ、どうしてっ? 俺、難しいこと言ったかなっ?」
「ヒトを疑うなんて、できない。難しい。ボクは悪魔だから、難しいことは分からない。聞こえない、分からない」
やけに『己は悪魔だ』ということを主張している! そして、それを理由に【俺の言いつけを理解していないフリ】をしているではないか!
さっきまであんなにいい子だったのに、どうしてっ。こっ、こんな時だけ、そんな……っ!
「──こんな時だけそんなズル言わないのっ! めっ!」
[──と言いながら、カワイ君の頭を撫でるのはおやめください]
──こんな時だけ我が儘なカワイなんて、メチャメチャ可愛いじゃないか~っ!
だって可愛いでしょ? 可愛いじゃんか! つまりこれって、俺への警戒心がゼロって話でしょ? 嬉しいじゃんか! 喜びを表現する以外なにをすれと? これが大正解じゃないか!
先ほどまで自分だって絆されていたくせに、ゼロ太郎が冷たく俺にツッコミを入れる。だが俺は、それどころではない。カワイが可愛いのだから、それを嗜むのが先決で最重要だ。
俺はカワイの頭をワシャワシャ~ッと撫でる。カワイの表情は特段変わっていないが、尻尾はゆらゆらと揺れていた。それも込みで可愛いから、俺はカワイを抱擁する。
俺に頭を撫でられ、ハグをされて。されるがままのカワイは至近距離にいる俺を見上げて、小首を傾げた。
「ヒトはボクの【人間界に対する価値観】をすごく気にしているけど、ヒトはどうなの?」
「俺にとっての魔界がなんなのかって話?」
「ううん、違う。そうじゃなくて、ヒトにとって人間界はどんなところ?」
俺にとっての、人間界? なるほど、そうきたか。ある意味、妥当な疑問だ。
俺にとっての人間界、とは。カワイの問いに答えるべく、考え込む。
考えて、考えて。……思い出したから、俺は眉を寄せてしまった。
──……駄目、だな。真剣に考えると、俺は……。
「いやぁ、あはは。そう言われても、俺は魔界に行ったことがないからなぁ。人間界以外の世界を知らないから、比較しようがないよ。だから、カワイの関心を引けるような答えは出てこないかな」
「そうなの?」
咄嗟に、誤魔化してしまった。無論、なにも知らないカワイは俺の言葉を素直に受け止める。それで、この話は終わりだ。
とにかく、カワイが人間界を楽しんでいるならそれでいいじゃないか。
こうしてカワイが、俺のそばにいる。この生活に満足しているのは事実だし、これ以上なにを追求するのも変な話だよ。うんうん、絶対そうだ。
「これからもよろしくね、カワイ」
「いきなりどうしたの?」
「言いたくなったから伝えちゃった」
「そっか。……うん。ボクも、ずっとずっとよろしくね」
ということで、俺の悩みはこれにて閉廷。今日も俺たち三人は仲良し家族。これだけ分かっていればそれでオッケーなのだ。俺はカワイをムギュッと抱き締めながら、幸福をしっかりと噛み締めた。
……ちなみに、後日。
「──すっごいねっ! お湯を注いだら本当に花が開いたよ!」
「──大成功。ボクとゼロタローに不可能なことはないからね」
俺は初めて、工芸茶が放つ芸術性に圧倒されるのであった。
……いやぁ。本当に、カワイの探求心は凄まじいねっ!
4.5章【未熟な悪魔のパーフェクトな知識です?】 了
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