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 昨日はジムに向かうため、ジャージやシャツや靴を揃えた。俺の分だけじゃなく、カワイの分もだ。  その流れでカワイと日用品の買い物なんかもしちゃって、充実した休みを満喫したりして。土曜日は、穏やか且つハッピーに終わった。  しかし、これでドレスコードはバッチリ。翌日の日曜日、俺とカワイは遂にジムデビューを果たした。 「ここが、あの女のハウスね」 [お金は貸しませんよ]  ゼロ太郎の準備もバッチリだ。今日もツッコミが冴え渡っている。  まぁ『ジム』とは言っても、町営のちょっとした施設だ。運動器具は揃っているけど、テレビのコマーシャルでよく見るようなガチガチの感じではないし、広さもそこそこ。構える必要はナシ。  俺とカワイは建物の前で互いの顔を見て、同時に頷く。どうやら、カワイも気合い満点らしい。  ちなみに、事前の下調べも完璧だ。 「中に入ったら、先ずは渡される受付用紙に氏名と住所と連絡先を書くよ」 「うん。それで、ロッカーのカギを借りて荷物を更衣室にしまっておく」 「おっと、忘れてた。受付の前に、外靴から中靴に履き替えなくちゃね」 「飲み物が足りなくなったら自動販売機で買おうね」  ゼロ太郎が集めてくれた情報を復唱し、俺とカワイはもう一度お互いの顔を見て、力強く頷き合う。  そんな俺たちの会話を聞いていたゼロ太郎が突如、スマホを通してポンと喋った。 [もしかして、お二人共。……緊張していますか?] 「「──当然」」 [──先が思いやられますね]  いざ、出陣! 俺とカワイはピッタリと寄り添い合いながら、初めてのジムへと足を踏み入れた。  ……が、その時だ。 「……あっ。ヒト、どうしよう」 「どうしたのっ?」  まさかのトラブル発生かっ? 俺はすぐさま、不安そうに俯いたカワイを見た。  カワイは恐る恐ると言った様子で顔を上げ、俺が着ているジャージの裾を引く。それから、申し訳なさそうにポソポソッと呟いた。 「──ボク、住所も連絡先も分かんない。あと、文字はまだ勉強中で……」 「──俺が代筆するね!」  特に問題ナシ! 今度こそ、いざ出陣!  建物の中に入り、運動器具が置いてある二階のスペースへと向かう。その場には既に、数人の利用者がいた。  カワイは……うん。ジムに対する不安はありそうだけど、人間に対しての緊張とかはなさそうかな。さすがカワイだ。  外靴を脱ぎ、中靴へ履き替え。すると愛想のいい受付さんから紙を渡されたので、カワイの分もペンを滑らせた。  事前情報通り、受付用紙を渡すと等価交換かのように鍵を渡される。俺とカワイは辺りを見た後、すぐに男子更衣室へと向かった。 「さすがゼロ太郎だね。情報に狂いがない」 「うん、さすが。スムーズに忍び込めた」 「いや言い方」  横目に他の利用者を眺めつつ、俺とカワイは言葉を交わす。  渡された鍵に書かれた番号のロッカーを開けて、荷物をしまい込んで。……よしっ。これで、準備万端だ。 「カワイ、大丈夫? 飲み物は持った?」 「うん。ヒトはゼロタロー持った?」 「飲み物もゼロ太郎もバッチリだよ」 「カギも失くさないように気を付けようね」  お互いの意識も確認し合い、俺たちは顔を見合わせて頷き合って──。 [──お二人共、やはり緊張していますね?] 「「──当然」」  お互いの緊張を、感じ合ったのであった。……ドキドキだ。

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