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猫騒動も落ち着き、俺とカワイは施設内全ての機械を一通り試し終えた。
最後のストレッチも終えた俺たちは、更衣室へと移動。借りている鍵で各々のロッカーを開け、帰宅の準備を進めた。
「最初はメチャメチャ緊張しちゃったけど、やってみると結構楽しかったね」
ロッカーから荷物を取り出しながらそう言うと、隣で同じようにロッカーを開けているカワイが頷いてくれる。
「うん、楽しかった。また、ヒトと一緒に来たい」
「なんて嬉しいことを言ってくれるのだろう。毎日でも来たい」
[嘘おっしゃい]
なんでやねん、その返しは、なんでやねん。……字余り。
俺とカワイは受付の人に挨拶をした後、施設から退室。そろそろ空が夕焼け色に変わりそうだなぁ~なんて思いながら、俺たちはのんびりと歩いた。
「今日はぐっすり眠れそうだよ。それに、体の中の悪い物質を全部出し切ったような感覚。すっごくスッキリしてる」
「そうだね。今日はいつも以上に充実した一日だったと思う」
たまには、こんな休日も悪くないかな。引き籠り上等な俺でもそう思えるくらい、今日は楽しかった。
並んで歩いていると、不意にカワイが俯いた気がする。
「でも、このまま帰っちゃうのは少しもったいない気がする。ヒトと一緒に体を動かすの、楽しかったから」
隣を見ると、カワイがしょんもりとした様子で俯いていた。尻尾も、元気なさげに垂れている。
「確かに、それもそうだね」
「ヒトもボクと、同じ気持ち?」
「うん、同じだよ。もう少し、カワイと一緒になにかしたいな」
かと言って『じゃあどこかのカフェにでも寄り道する?』という話ではない。俺はダイエットという名目でここに来たのだから、本末転倒も甚だしいだろう。
だけど、部屋に戻るのもなにか違う。まだもうちょっと、外でなにかをしたい気がする。だからと言って買い物も、なんだか違う気がするような。
カワイと一緒にもう少し、体を動かせるような……。考えてから、数秒後。ピコンと、閃いた。
「あっ。それなら、ちょっと寄り道してもいいかな?」
俯くカワイを見て、俺はニコッと笑みを浮かべてみせる。顔を上げたカワイは、俺の笑顔を見てくれた。
「うん、いいよ。でも、どこに行くの?」
「ちょっとね、必要な物を買いに行こうかと思って」
怪訝そうなカワイに向けて、手を差し出す。……あれ? カワイが一瞬だけ驚いたように見えたけど、気のせいかな。
カワイが俺の手を握ってくれたので、俺たちは手を繋いで歩き始める。向かう先は、カワイも行ったことがあるお店だ。
「この道って、ホームセンター? 家具とか日用品で、なにか欲しい物があるの?」
「ううん、違うよ。カワイと一緒に遊べる道具を買いに行こうと思ってさ」
要領を得ないらしい。カワイはどことなく不安そうに、俺の手をギュッと握った。
まぁ、特に秘密にする理由もないからね。俺はカワイの手を同じくギュッと握ってから、カワイに訊ねてみる。
「──カワイ、キャッチボールってしたことある?」
カワイは大きな瞳を丸くして、なにも言わずに小首を傾げた。
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