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 ゼロ太郎による鋭いツッコミを受けた後、俺とカワイは食器を片付け始めた。 「まぁそんな感じで、俺にとってゼロ太郎はある意味で理想的な家族だったという話なのでしたっ。ちゃんちゃんっ」 「とても強引な締め」  食器を洗うカワイを眺め、俺はウロウロと動く。家事に関して戦力外通告を受けている俺は当然、食器洗いを手伝わせてもらえない。 「えぇっと、カワイ? 俺にもなにか、できることとかないかな~?」 「うん、ない」 「せめて少しは悩む素振りを見せてほしい」 「──じゃあ、そばにいて?」 「──俺にしかできない仕事じゃないか。任せてくれたまえ」  ハッ! なんだか、手のひらでコロコロッとされた気がする! でも、嫌いじゃない! むしろ嬉しい!  しかしどうやら、俺が家事をするのはカワイにとってむしろ迷惑っぽいぞ。  ならばせめて小粋なトークを提供しようと思い、俺は口を開く。 「ゼロ太郎は言葉だけ見ると冷たい奴かもしれないけど、こうなるまでの経緯とか思い返すとこう、ね? 感慨深いと言うか、感涙ものと言うか……」 [まるで親のような反応をしないでください。私は必要性を感じたからこそ、こうした進化を遂げたのですから] 「親かぁ~。血のつながりはなくても、俺たちは家族だしねっ。関係性とかポジションについては考えていなかったけど、ゼロ太郎が望むなら俺は親でもなんでもいいよっ」 [なにを仰っているのですか。主様は親に──……]  すると途端に、ゼロ太郎が黙った。  一応、念のため言っておこう。俺たちはゼロ太郎のように、相手が考えていることを推測したり見透かしたりはできない。  だから、俺もカワイも知らないのだ。分かるはずもなかった。  ゼロ太郎が、黙った理由を。……ゼロ太郎が回想していたメモリーを、俺たちは知らない。 『ごめんね、ゼロ太郎。ごめん、ごめんね』 『こんな姿、誰にも見せたくなかったのに。なのに、ごめん。本当に、ごめん……』 『堪らなく、怖いんだ。どうしても、忘れられないんだ。だから、さっきは……っ』 『ごめんね、みっともない姿を見せちゃって。……ゼロ太郎が、俺を家族って呼んでくれたのに。それが、嬉しかったのに……初めて、だったのに。なのに、ごめん。ごめんね……っ』 『ありがとう、ゼロ太郎。俺、ここに引っ越してきて──ゼロ太郎に会えて、良かった。本当に、良かった……っ』 「ゼロタロー? どうかしたの?」 [……いえ]  突如として黙り込んだゼロ太郎を、カワイも不思議に思ったらしい。俺と同じくどこか不思議そうな顔をして、ゼロ太郎に声をかけたのだから  ゼロ太郎がなにを思い返して、なにを考えていたのかなんて俺たちは知らない。そしてゼロ太郎の性格的に、本当のことを話してはくれないだろう。  だけど……。 [──愉快だな、と。いつかどこかで学んだこの言葉を、噛み締めていただけですよ]  ただ珍しく、ゼロ太郎が嬉しそうな声を出した気がして。俺とカワイは顔を見合わせた後、互いに小首を傾げ合った。 5.5章【未熟な社畜と未熟な悪魔の恋バナです】 了

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